日本でもかなりTTの人気が高まってきました。今回はTTレース当日の準備についてご紹介しましょう。
TTは古くから「真実のレース – The Race of Truth -」と言われるように実力がハッキリと出るレースです。
ではTTに求められる”実力”とは一体なんでしょう? それは以前にもご紹介したとおり、個人TTであればFTP・VO2MAXの高さ、そしてペーシングの技術、ペダリング・ハンドリングの技術、そして何よりも高い集中力と精神力です。
レース当日まで高めてきたFTP・VO2MAXを遺憾なく発揮するための方法を順番に見ていきましょう。
(1)ペーシング
全てのTTにおいてペーシングは、最重要項目です。
TTは自身が設定したペースをどれだけ維持出来るかの戦いと言っても過言ではありません。
しかし、たとえ4㎞のプロローグでも、まるでゴールが目の前にあるかのように飛び出してはいけません。速過ぎるスタートで稼いだ数秒はゴール前の数キロで簡単にひっくり返ってしまいます。
冷静に集中し、出来るだけ足を使わず、かつスムーズに加速し巡航スピードに乗せることが大切です。
左の図はペーシングに成功したライダーのパワーグラフです。黄色がパワー、赤が心拍数、青がスピードを表しています。
スタート直後は加速の為、FTPを大きく超える強度を発揮していますが、FTPを僅かに超えているのも90秒経過頃までで、後は安定した巡航に入っています。
その後、我慢強くペースを維持し最後の10分間で、限界まで力を振り絞っているのが見て取れます(心拍・速度が上がり、パワーは激しく上下動している)。
上記のライダーのようにペーシングに成功したするとVI(variety indexノーマライズドパワーをアベレージパワーで割った数値)は、1.01~1.02程度に収まります(※)。
これが「ロケットスタート」してしまうと、後半は必ず落ちてしまいますし、逆に前半抑え過ぎると後半にいくら上げても取り返しのつかない差が生まれてしまいます。そしてペースの変動からVIは大きくなってしまいます。
TTはスタートからゴールまで自身が保てる限界のペースを探すレースと言い換えることもできます。
(※)平坦~登りのTTの場合
用語説明
・ノーマライズドパワー(Normalized Power)…ペダリングを止めずに一定ペースで走り続けたと仮定した場合の平均ワット数。これにより登り下りの多いコースでも、体にかかった負荷をワット数で表すことが出来る。たとえば下りを含むコースの場合、平均ワット数は減るがその分平坦と登りの負荷は増えるため、平均ワット数の割に体にかかる負荷は大きくなる。
・アベレージパワー(AVG)…単純な平均ワット数
・VI=NP/AVG 値が1.00に近いほど、ライダーが一定出力を発揮し続けたことを示す。
たとえば長い登りと長い下りを含むコースでは1.00よりも大きくなり、平坦コースで上手くペーシングできれば1.00に近くなる。
(2)ペダリング・ハンドリング
ペダリング・ハンドリングは上記のペーシングを支える元となるものです。
滑らかで美しいペダリングは高出力の維持を可能にします。また高いハンドリング技術は、最短ラインを最速で回るコーナーリングを可能にし、加速に使う労力を減らします。
(3)高い精神力と集中力
レースで精神力を発揮するための作業はレース前から始まっています。
・試走…前日試走が出来る場合は、レースでの走りをイメージしながら走りましょう。スピードは抑えつつもレースで行うべきペダリング、レースで取るべきラインをイメージして試走します。
ただ間違ってもレースのペースで全コースを走ってはいけません。イメージを作り、体にペースを覚えこませる程度にしておきましょう。またレース前日はTTの集中力を妨げると思われる行動はとってはいけません。外出は最小限にし大声で騒ぐようなことも慎むべきです。リラックスしながらも
常に次の日のことを考えて行動しましょう。
(4)ウォームアップ
TTにおいてはウォームアップは集中力を高める儀式でもあります。自分の中で「これをやっておけば体が動く」というアップのベースを作っておきましょう。それを元に天候・コース・体調などに合わせて調整していけば、自信を持ってスタートランプに上がれるでしょう。
尚、通常ウォームアップは本番用の機材で行い感触を確かめた方が良いのですが、レース会場が河川敷などで鋭利な石や砂利が落ちている場合、万全を期してアップは本番用のホイールではなく、練習ホイールで行ったほうが無難です。
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ウォームアップの例
出来れば日陰など涼しいところで。
WU:5分のエンデュランス(Power Z2 56-75%, HR Z2, RPE 2-3)
10分間のランプ(徐々にペースを上げること)、エンデュランス(Power Z2 56-75%, HR Z2, RPE 2-3)からFTP(Power Z4 91-105%, HR Z4, RPE 4-5)まであげて行きましょう。1分ごとに上げて行って9~10分の間はFTPまで持って行きます。
さらに1分TTペースを維持します。
その後、5分イージーで。
次に4 x 1分の高回転走。100rpm以上で。ワットは気にしない。スムーズで軽やかに回すイメージが大切です。筋肉に充分血液が送り込まれるように意識しましょう。高回転走の間のインターバルは1分ゆっくり回します。
5分のエンデュランス(Power Z2 56-75%, HR Z2, RPE 2-3)
5分のVO2Max(Power Z5 106-120%, HR Z5, RPE 6-7)
最後に5-10分のイージー
ローラーでアップした場合は、軽く実走しバイクの調子を確かめておきましょう。暑ければ頭や胸、背中をアイシングして余分な熱を取りましょう。アイスベストを着用するのも効果的です。
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アップを終了し、気持ちを落ち着け、タイヤに傷や異物が刺さってないかを確かめ、水分を摂ったらいよいよスタートラインに向かいましょう。
少し長くなってきましたので、続きは明日ご紹介します。
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takashi@peakscoachinggroup.com
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Peaks Coaching Group
中田尚志
中田尚志…Peaks Coaching Group プラチナム認定コーチ。
パワー・トレーニング・バイブル(原書:Training and racing with Power Meter)の著者、ハンター・アレン(Hunter Allen)氏のもとでパワートレーニングを中心にコーチングを学ぶ。
25年に及ぶ日本・アメリカでのレース経験を持つ現役選手。バージニア州ベッドフォード在住。現在でも週末はPro/1/2レベルおよびマスターズでレースに参加している。2013 全米自転車競技連盟主催パワートレーニングセミナー修了