前回はパワートレーニングの基本的な考え方について述べましたが、今回は実際のメリットについてご説明します。
パワートレーニングのメリット
(1) 目標値の設定・確認が出来る。
FTPを基準にパワーゾーンを設定する事で、長所・弱点の把握が行えます。
また目標に対してどれだけの強化が出来たか把握できます。
目標設定の例
・前回300wattsで20分かかった登りを今日は310wattsで登ってみよう!
・いつもは360wattsで5本繰り返すインターバルを今日は6本やってみよう!
達成度確認の例
・300watts 15分 x 3本の練習を繰り返し 310watts 15分 x 3本が出来るようになった。→約3% x 3本の向上
・330wattsで3分しか維持できなかったパワーが360wattsで出来るようになった。→約10%の向上
またパワーメーターがあれば、練習とレースのパワーを比較する事も出来ます。
過去の自分を打ち負かそう!
(2)データ解析が出来る。
下記の図はあるプロ選手のゴール前1kmのデータです。
赤い線が心拍数・青色がスピード
・オレンジが勾配を表しています。
心拍数はラスト1kmの地点で163bpmであったのが、ゴール前で174bpmまで上昇しています。
このデータからは段々とゴールまでペースが上がったように見えます。
ではこの図にパワーをあらわす黄色の線を加えてみましょう。パワーデータが表す彼の動きは下記の通りです。
・アシストに引かれて足を使わずスピードを上げています。
(図中①)
・この後、パワーは0ワットになり一瞬脱力していることが分かります。
(図中②)
・解き放たれた彼はスプリントを開始します(図中③)。
・相手との距離を測り一瞬足を貯めます(図中④)
・そして最終スプリントに入ります(図中⑤)
・後続は離れフィニッシュラインを踏む時は脱力しています
(図中⑥)。
そう、彼はこのレースを優勝したのです!
パワーデータを解析すると下記のようになります。
・アシストに引かれて前に上がる時に無駄に足を使わなかった(24秒平均587w①)。
・アシストに解き放たれる直前に一度完全に脱力し足を貯めた(5秒0-120w②)。
・解き放たれた瞬間に2度900wのキックを行い後続を突き放した③。
・再度足を貯めた(5秒間15-322w④)
・ゴール直前で3度目のキックを行い完全にライバルを諦めさせる事に成功した。(7秒間平均604w⑤)
・最後は流してゴールした⑥。
このようにパワーデータはデータのみに留まらずレースのストーリーさえも克明に描き出してくれます。
これはコーチと選手が情報を共有する上で非常に有益になります。
彼のコーチは後に「30秒間600wを維持した後、3秒OFF -5秒ON(90%Sprint) -3秒OFF -15秒MAX SPRINT!!」のレース シュミレーションメニューをこの選手に与えています。
(3)トレーニングの最適化が図れる。
トレーニングは一見「どこまでも遠く、誰よりも速く」走った人が一番強くなれるように思えます。しかし実際は毎日頭が真っ白になるまで走ったからと言ってレースに勝てるほど自転車競技は単純なものではありません。
その時必要な強度で、最適な時間トレーニングを積めた選手が、レースで最適な走り方をした時に勝利はもたらされます。
パワーメーターは必要な強度・最適な時間を正確に測る事が出来ます。
(4)時間短縮トレーニングが出来る。
長いトレーニングでも“実際にトレーニングしている時間”は意外に短いものです。
例えば峠をいくつも越えるハードなトレーニングを行ったとしても、実際半分以上はエンデュランス領域もしくはリカバリー領域で走っているものです。
4時間のトレーニングの中で、20分の峠を3回FTP領域で攻めたならば実際の練習内容は概ね下記ぐらいになります。
FTP20分×3=1時間
エンデュランス領域=1時間
リカバリー領域=2時間
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合計 4時間
この中で実際のトレーニング=体に負荷を与えているのはFTPとエンデュランス領域に入っている時間ですから、リカバリーを刈り込み、ほぼ同じ負荷の練習を3時間で行う事は可能です。余った1時間は他の強化に使う事も出来ますし、家で”実際にリカバリーする”時間に回すこともできます。このようにパワーゾーンでトレーニングを管理することにより、より短い時間でより効果的なトレーニングが可能になります。
少し長くなってきましたので、続きは明日にしましょう。
明日はあまり語られないデメリットについてもご説明します。
Peaks Coaching Group
ハンターアレン、中田尚志(共著)
ハンター・アレン…全米自転車競技連盟Level1認証コーチ。元プロ・ロード選手。1995年よりあらゆる種目のコーチングを手掛け世界チャンピオン、全米チャンピオンを始め1,000以上の勝利に貢献している。全米自転車競技連盟パワートレーニング講座の講師。
パワー・トレーニング・バイブル(原書:Training and racing with Power Meter)他、著書多数。