ミラノ~サンレモはどれぐらいキツいのか? Part2



昨日に続いて2019 ローソン・クラドック(EFエデュケーション)のミラノ〜サンレモのデータを見ていきましょう。

時間・距離・TSS・エネルギー量を確認することで概要がつかめたら、更に深くデータを見ていきます。


※写真をクリックすると実際のデータがご覧いただけます

・GPSデータ 地図データと標高を確認して全体像を把握する

次に見るのはGPSによる地図データと標高です。バイク・コンピュータの進化は素晴らしく、パワー・ケイデンス・心拍・スピード・標高・GPS・温度などのデータを1秒毎に記録することが出来ます。地図データを見るとミラノから南へ南下しトルキーノ峠を超えて海岸線に出ると暫く平坦基調の道が続き、3つの丘を越えた後にチプレッサ、ポッジオという勝負どころを超えて一気にフィニッシュに向かいます。

  • トルキーノ峠 3.2km 4.7% 544m
  • カポ・メーレ  1km 5% 78m
  • カポ・チェルボ 1.6km 3% 61m
  • カポ・ベルタ 1.7km 7% 125m 
  • チプレッサ 5.6km 4% 237m
  • ポッジオ 3.5km 4% 161m

トルキーノ峠はコースプロフィールで見ると544mあり、峠の3.2kmの登りに至るまでじわじわと登り続けています。ですから峠に至るまでに微妙に足を使っているはずです。トルキーノ峠を超えた時点で3時間45分 149km。それだけ走ってもレースはいまだ中間地点です。

そこから2時間近く平坦を走って3つの丘に入ります。この時点で244kmを走破。ここからが本当のレース開始です。こうしてGPSデータをみることでコースの全体像を把握して見るべき部分のあたりをつけることが出来ます。

 

・エネルギー量とTSSを確認して消耗度を見る

244kmも走ると既に足には来ていますし、その上、平坦を長く走った後に突如登りに入るとリズムが変わり上手く登れない時もあります。3つの丘に入るまでのデータを見てみましょう。

244km走行後の時間・距離・TSS・エネルギー量

  • 5時間45分
  • 244km
  • 229TSS
  • 3,856kJ

プロのデータを見る時にコーチがよく使うのは「一定のエネルギー量を超えた後に何ワット出せるか?」です。そこに至るまでの強度や体格にもよりますが、多くのプロ選手にとって3,000kJを超えて踏めるかどうかが、先頭集団に残れるかどうかの目安になります。完成されたプロ選手であればMMPの90%以上のパワーを3000kJを超えて尚出すことが出来ます。

また距離が苦手な選手を改善する場合、何キロジュールを超えると足が止まるのか? どれぐらいのTSSを超えると足が止まるのか?を見ておき、長距離トレーニングではそこを僅かに超える距離をこなしたり、トレーニング後半でFTP以上のメニューを入れたりして距離に対する耐性をつけていきます。

・AVP、NP、VI、IFで強度の変遷を確認する。

次にみるのは詳細なパワーの変遷です。ここでも大切なのは昨日と同じ「全体を見てから詳細を見る」です。全体のAVP, NP, VI, IFを把握してから各区間を見ていきます。

  • AVP(Average Power 平均パワー)単純にパワーを時間で割ったパワーの平均値。登りなどの区間に絞って見るのに確認するのに適している。しかし足を止めている時間も含むためレースでのAVPはレース全体の強度を表すには不適。
  • NP(Normalized Power ノーマライズドパワー)は「もし一定ペースで走ったら何ワットになっていたか?」を表す指標。AVPよりもレース全体の強度を見るのに適している。
  • VI(Variability Index バライアビリティ・インデックス) ノーマライズド・パワーをAVPで割った数値。どれぐらいペースが変化したかを表す。
  • IF(intensity Factor インテンシティ・ファクター) ノーマライズド・パワーをFTPで割った数値。FTPに対する強度を表す。

これらを使ってレース序盤・中盤・後半に分けてみてみましょう。

  レース序盤(スタート〜2時間半) 中盤(トュルキーノ峠〜3つの丘) 後半(3つの丘〜ファイナル) 全体
AVP 149W 214W 312W 208W
NP 195W 262W 376W 280W
VI 1.31 1.22 1.21 1.35
IF 0.51 0.69 0.99 0.74

上の表を見ると分かるようにAVP, NP, IFともに時間が経過するにつれて上がっています。まさにこれらの数値はプロのレースを表しています。プロのレースは距離が長いにも関わらずラスト1時間が最も速くなり勝負が決まります。

コースレイアウトもそのレース展開を盛り上げるように最後の1時間に難しい区間を集中させます。

注意点 NP・VI・IFは10分以下だと正確に出ません。20分でも高く出過ぎます。60分以上が数値を見るには適しています。データを解析するときには注意が必要です。

 

 

・FTPからレース強度を想定する

上の表にあるようにレース後半の1時間はNP376W IF0.99。クラドックのFTPは380W程度と考えられますから7時間のレースのラスト1時間でなお、FTPの99%の強度で走っていることが分かります。これが出来るのはまさにプロで驚異的なスタミナを彼らは持っています。

クラドックは自身初めて3月に行われたこのレースを集団内の44位でフィニッシュし、8月のツアー・オブ・ユタでは総合7位、ヴェルタを完走して9月終わりの世界選手権ITTでは6位に入っています。2月からシーズンインし、10月まで走らなければならないワールド・ツアー。

その中のたったひとつのレースを例に見ても彼らの素晴らしい身体能力をうかがい知ることが出来ます。

プロの凄さを知るとともに皆様のロングライド解析の参考にして頂ければと思います。

Peaks Coaching Group – Japan

中田尚志

 

参照元 Training Peaks Blog File Analysis: Lawson Craddock at the 2019 Milan San Remo

https://help.trainingpeaks.com/hc/en-us/sections/205644448-Glossary-of-Terms