[パワー] ツアー・オブ・ジャパン 東京ステージ
UCI2.1に格付けされる日本最大のステージレース、ツアー・オブ・ジャパン。
主催者発表で今年の観客数は351,200人。中でも東京ステージは112,000人を集めました。
最終ステージ東京で優勝争いを演じ2位に入った阿部嵩之選手(宇都宮ブリッツェン)のパワーデータを見て行きましょう!
・アベレージパワーは絶対的な評価基準ではない。
東京ステージはパレードを経て更に15km程度走行した後に大井ふ頭の7km周回を14周します。
パレード後、各チームの思惑が交錯しアタックが頻発することで激しくペースは変化しました。
阿部選手も700Wを超えるようなアタック・追走を行って対応します。
この時、31分間のアベレージ(AVG)パワーは218W。
激しいON / OFFの繰り返しの為、AVGは意外に低いです。しかし、この数値がレースのキツさをあらわしているかというと、そうではありません。
AVG218Wで巡航するのはアマチュアでも十分可能な数値ですが、実際は700Wを超えるアタック・追走を13本行っており、肉体的にはプロでもキツイ状態です。
このようにロードレースのパワーデータを評価する時、アベレージは意味がありません。
こういった状況を分析するにはNP(ノーマライズド・パワー)を使います。
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・NPとは?
NPはハンター・アレンとアンディ・コーガン博士が考案したメトリクスで「もし一定ペースでペダルを漕いだら何ワットになるかの想定値」です。
例えば東京ステージ前半のアベレージは218Wですが、NPは246W。
これは「もし一定ペースで走っていたら246Wの負荷で走るのと同じぐらいの負荷がかかっていた」と言えます。
このようにNPはAVGパワーよりも体にかかった負荷を現実的な数値で表すことが出来ます。
ロードレースではパワーのON / OFFが肉体的な負担となるのでアベレージだけでは不十分です。
一方、ヒルクライムや短時間の走行で概ね一定の負荷がかかった場合はアベレージパワーで頑張りを評価出来ます。
ちなみにNPは短い時間(20分以下)では実際よりも数値が高く出過ぎるので注意が必要です。
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・NPで見るレースデータ
前半のアタック合戦に阿部選手自身加わりながらも決定的な動きには至らず、勝機を伺う走りが続きます。
その後、13名の逃げが決まり最終的には11名に。
ウイニングブレークとなった逃げのNPは276W。「もし一定ペースで走ったら276Wで巡航する強度の走りだった」と言えます。
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・VI
NPを更に深く理解するにはVI(Variability Index)を使います。
VI=NP / AVGパワー
VIが大きくなればなるほどAVGパワーに対してNPが大きいことになり、ペースの変化が大きいことを示します。
VIの目安
>1.2 変化の激しいクリテ
<1.05 トライアスロンなどの一定走
TOJ東京ステージのVI と NP
前半 1.13 246W
中盤 1.14 240W
後半 1.10 276W
ここから前半~中盤はペースの変化の激しいアタック合戦。 後半は逃げが決まりペースが速いながらも安定していたことが分かります。
実際700Wを超える加速は前半30分で14本、中盤34分で13本に対し後半は1時間で16本です。
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最終局面
レースがラスト2kmに入った時、ヨン・イラストルサ・インサウスティ(バーレーン・メリダ)が単独アタック。
阿部選手も間隙を突いて逃げ集団からアタック。イラストルサを追走します。
阿部選手の追走 |
イラストルサに追いつき勝負は2人に絞られます。
優勝以外に興味の無いイラストルサ、UCIポイント獲得も意識する阿部選手とのスプリントはイラストルサに軍配が上がりました。
優勝できなかったのは残念ですが、春先故障・ケガに悩まされシーズンインが大幅に遅れた阿部選手が着実にコンディションを上げている事は結果とパワーデータが示しています。
また国際レースで勝負する為に必要な身体能力をパワーデータは示してくれます。
パワーデータを振り返ることで、肉体にかかったコストを知り、強化のポイントを明らかにしていくことが出来ます。
阿部嵩之選手 TOJパワーデータ (メーター実測) 時間:2h 14m 47s 距離:112km 平均時速:46kph AVGパワー:239W NP:271W MAX:1,223W エネルギー:1977kJ TSS:172 |
まとめ 阿部選手の体格でTOJ東京ステージで勝負するには? ・2h NP271W程度で走る能力が必要 ・700Wを超えるアタック・追走を40本程度繰り返す能力。 ・ウイニングブレークは1h NP276W程度。 ・インサウスティを追走する時に行った加速は42.4kph → 59.4kph ・同じく追走は37秒 591W Max1,198W |
参考資料:
http://www.toj.co.jp/2017/tokyo/#result
http://www.toj.co.jp/2017/?tid=100201
[パワー] ミラノ・サンレモ パワーデータ
Training Peaksに掲載されたミラノ・サンレモのパワーデータです。
(1)選手
ウィル・クラーク(キャノンデール・ドラパック)
192㎝
81kg
FTP 438W (5.4w/kg)
(2)ミラノ・サンレモ2017
レース全体 7:16:48
NP 301W
AVP 259 (3.1W/kg)
IF 0.68
平均時速 39.5kph
消費エネルギー 6899kJ
TSS 340
用語解説
NP=Normalized Power:
もし一定のペースで走っていたら何ワットになっていたか?を表します。
パワーの上下動は体に負荷をかけます。その為、レースの平均ワット数は強度を正確に表しません。
ウィル・クラークの場合、平均ワット数は259Wですが、レース全体で平均301Wで走り続けるのと同じ位の負荷がかかっているということをNPは表します。
TSS=Training Stress Score:
FTPで1時間走ったらTSSは100になります。
ミラノ・サンレモはウィル・クラークにとって7時間で1時間の全力疾走を3.4本行ったのと同じ負荷という意味です。
(3)レース
ミラノからサンレモまで291㎞を走るレースはゴールスプリントで決まる事が多いですが、レース距離の長さと終盤のチプレッサ (5.6 km 勾配4.1 %)、ポッジオ (3.7 km 勾配3.7%)をメインとする丘陵地によって単にスプリント力があるだけでなくスタミナも要求されます。
この日最も6時間以上も逃げに乗ったウィル・クラークのデータをパフォーマンス ディレクターのキース・フローリーの解説で見て行きましょう。
・世界最長のクラシックであり、ポッジオ・チプレッサの前の小刻みな丘陵地が脚を削り取る。
・ポッジオでアタックしゴールまで逃げ切るとすると時間は8分程度。
・曲がりくねったポッジオを下るにはテクニックが必要。さらにそこからゴールまではまだ3kmある。
・チームメートのトム・スクインジとクラークはスタート直後にアタック265㎞までその逃げは続いた。
・スタート直後のアタック
20秒 784W(9.42W/kg)
30秒662W(7.96W/kg)
60秒545W(6.55W/kg)
・6h30m続いた逃げのパワー
NP301W AVP260W 平均時速39.84kph
前半の内陸部 NP 271W
後半の海岸線 NP 332W
逃げは常に一定ペースを刻んでいるのではなく、後続集団との距離を測りながらペースをコントロールしています。
残り距離に対して集団が警戒しない程度の差をキープする為に前半はある程度脚を残しながら逃げて、後半はペースを上げているのがパワーから見て取れます。
驚異的な身体能力を持つワールドツアーの選手達。
今年のクラシックシーズンも楽しみですね!
元記事
https://www.trainingpeaks.com/blog/power-analysis-cannondale-drapacs-will-clarke-milan-san-remo/
パワーデータ
http://home.trainingpeaks.com/athlete/workout/7TWDWYERC7OEJWKRNGNTUBMFPM
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[クライアント募集]
Tabata の強度設定について パワーセミナー参加者からのご質問
大阪のパワーセミナーに参加頂きありがとうございました。
参加者の方から興味深いご質問を頂きましたので、シェアしてみたいと思います。
Q1. TABATAを実施する際のパワーはFTPの何%で行うのがよいでしょうか?
質問者: セミナー参加者 堀様
A. PCGでは最初から全開!とペーシングの2種類の強度設定をお勧めします
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回答の前に少しHIITについて説明させて頂きます。
(1) Tabata(HIIT)について
Tabataを含むHIIT(High Intensity Interval Training)はエフォートとレストの時間比率を2:1以下にする高強度のインターバルトレーニングです。
HIIT
例: (20秒ON / 10秒OFF) x 8 =4分のTabata
(40秒ON / 20秒OFF) x 10 =10分のAC HIIT
Classic
クラシックなインターバルはエフォート:レスト=1:1~3とエフォートとレストが同じ or レストの方を長く設定します。
例: (3分ON / 3分OFF) x 3 = 15分のVO2Maxインターバル
(2分ON / 4分OFF) x 5 = 26分のACインターバル
パワートレーニングの観点から言うと、HIITは心肺機能にはVO2Max(HR Z5, RPE 6-7)の負荷をかけつつパワーはAnaerobic Capacity (Power Z6 121-150%, HR Z6, RPE >7)の強度でトレーニングする手法です。
クラシックは心肺機能・パワー共にターゲットのパワーゾーンを狙い撃ちして能力を伸ばす手法です。
HIITは高強度トレーニングを短時間で行えるメリットやレースでのパワー特性に近く、よりレースに即したトレーニングが出来ると言われています。
クラシックはターゲットのパワーゾーンに居る時間が長い為、よりフォーカスしたトレーニングが出来ると言われています。
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(2)実現可能な強度について
Tabataに限らずHIITについては、FTPをベースにすると実行できる強度は個人差が大きいです。
Tabataの場合、ある人は20秒ONの強度が170%以上を維持出来、ある人は150%以下かも知れません。
その為、それぞれの選手について強度設定/目標は変わってきます。
全体的に見て、トラック中距離、クリテ、短いロードレース、MTB XCO、 CXの選手はこういったトレーニングは得意です(>170% of FTPが可能) 。
一方、長いロードレース、ヒルクライマー、TTer は競技特性やFTPの高さからFTPに対してあまり高い強度は出ません。(160% of FTP程度になる)
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(3)Tabata(HIIT)の実行方法について
Tabataの実行方法そのものについては2つの考え方があります。
方法1. 最初から全開!どれだけタレても完遂!!
酸素負債を抱えれば抱えるほど効果があるという考え方。
これはタバタ本来のコンセプトで、無酸素を重ねて行っても時間の経過により有酸素の部分が出て来るので無酸素/有酸素両方に効果が得られるというものです。ペーシングは一切考えずとにかく最初から全開=酸素負債を最大にする走りが要求されます。
1. 最初から限界!
黄色の実線がパワー、黄色の点線がFTP、 ピンクが160% of FTP、緑が170% of FTP。
方法2. FTPの160-170%を繰り返す。
最後まで強度を下げない方が効果があるという考え方。
方法1.を行った場合、人によっては最後の方は酸欠でFTPさえ出ない事もしばしばです。
パワーベースで考えた場合、FTPさえ出てない強度になってしまうよりも、エフォート全体(Tabataなら4分)で大きなエネルギーを取り出した方が効果的との考え方から、ある程度ペーシングする方法です。
FTP以下の強度になると、あくまで筋肉にかかっている負荷はFTP以下なので、それよりも高いパワーを維持した方が良いという考え方です。
ちなみに160-170%の強度設定は、多くの人がここに収まる為です。可能なら170%以上にするべきですし、難しければ160%以下でも構わないです。
2.ある程度ペーシング
黄色の実線がパワー、黄色の点線がFTP、 ピンクが160% of FTP、緑が170% of FTP。
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(4)どちらを行うべきか?
実は、パワーの世界でもHIITに関して明確な答えがまだ見つかっていません(HIITが比較的最近登場したこと。個人差が大きい為に長期的な研究結果がまだ無い。)。その為、これといったガイドラインはありません。
PCGでは上記の二つを組み合わせています。
方法1を採用する場合
レースが近い、限界まで追い込みたい、負荷をかけたい場合。
例:トレーニング時間がなくその日のトレーニングがタバタのみの場合。など。
方法2を採用する場合
HIITの経験が浅い、足が出来ていない、一旦他の方法で追い込んだ後に仕上げで行う場合。
例: 初めてTabataにチャレンジする、本番のレースまで時間がある、トレーニングの仕上げに行う。など。
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(5)経験則
私のクライアントさんを見て来た印象では、1を行った方が仕上がりは比較的早く、2を行った方が長期的な向上が見られるように感じられます。
理由としては方法1は、より高強度な為、体が高強度に対して開発されやすい。
2の方がターゲットに居る時間が長いので、長期的な向上を見込める。といったところでしょうか?
このあたりはあくまでレースに向けたトレーニングをする中で、他のワークアウトも組み合わせており、Tabataの効果だけを追ったわけではないので、もう少し専門的にデータを集めないと断言は出来ません。
あくまでこれまでの印象です。
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(6)最も重要なこと
確実に言えることは、どちらの方法を行うにしても限界まで追い込まなくてはならないということです。
方法1では2本目から既に足がもつれそうになりますが、それでもモガキ倒す必要があります。
方法2ではペーシングするといっても低い強度でペース走を行ってはトレーニング効果は薄くなります。
維持出来る限界で繰り返すことが必要です。
またHIITは調子を上げてくれる分、ダメージも大きいので、行うタイミングを選ぶのも大切です。
レースから遠く離れた時期に行っても、あまり意味がないばかりか、ピーキングを考えると害になりかねません。
この先、研究が進み方法1 or 2のみを行った方がいいのか?
もしくは1/2の最適な組み合わせが分かる日が来るかもしれません。(もし研究機関でこのようなデータをお持ちの方はご連絡お願いします!)
上記を参考にして皆様もご自身を実験室に色々と研究を重ねて頂ければと思います。
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