さぁパワートレーニングを始めよう! Part7 実践編②
前回ご紹介したMAXパワーチャレンジを数回こなしたら、次は自分だけのパワープロファイルを作成しましょう。
パワープロファイル作ることで、自身の長所と短所を客観的に測ることが出来ます。また世界基準に対して自分がどの辺りに居るのかを知っておくのも面白いものです。
今後世界を目指そうという若者は、常に自身のパワーをモニタリングし、「1年前と比べてどのくらい世界に近づいたか?」を測っておくことは、特に有効な指標になります。
では実際の方法を例を取って説明して行きましょう。
パワープロファイルの作成方法
1.パワープロファイルをTraining Peaksよりダウンロードします。
下記のリンクを参照し、記事中段にある「Examples of Power Profiles for Common Specific Disciplines」から「All Rounder」をクリックし、MSエクセル・スプレッドシートをダウンロードしましょう。
Power profiling
http://home.trainingpeaks.com/blog/article/power-profiling
- powerprofile-allrounder-v4.xls (download 28.5K)
パワープロファイル・チャート |
2.パワープロファイルを作成
トレーニングの中で実測した5秒、1分、5分、FTPをそれぞれ体重で割った値を入力して行きます。これはw/kgという単位で表します。
例 男性 体重60kg
ベストスコア 5秒1,260watts、1分600watts、 5分360watts 、FTP 300watts
体重1kgあたりのワット数 5秒21.00w/kg、1分10.00w/kg、5分6.00w/kg、FTP5.00w/kg
上記の値をダウンロードしたパワープロファイルに当てはめて行きます。ピッタリの値がない場合は近似値を選びます。
3.パワープロファイルを評価する。
バランスとレベルを知ろう! |
出来上がったパワープロファイルを元にパワーを評価して行きましょう。
①パワーのバランスを評価する
出来上がったパワープロファイルを見ると彼は各パワーゾーンでバランス良く出力を発揮していますが、中でも短時間の出力が得意な事が分かります。(5秒・1分のレベルが5分・FTPよりも高い。)
これはスプリント(5秒)、アネロビック(1分)が得意でVO2Max(5分)・FTP(20~)は若干ながら不得手であることを意味しています。タイプで言うとスプリンターと言えます。
②世界レベルと比べる
さらに横にある見出しを参照すると5秒・1分の出力はアメリカ国内プロに匹敵し、5分・FTPはカテゴリー1に該当していることが分かります。
4.戦術を考える
では彼がカテゴリー1および国内プロの中で闘って行くにはどうすれば良いのでしょうか?
脚質に合った戦術を |
出来上がったパワープロファイルから彼の持ち味はスプリントおよびアネロビック・パワーであることが分かります。ですから、レースでは若干不得手なVO2Max・FTPをかばいながら、スプリント・アネロビックのパワーで勝負して行くことが必要になります。
例を挙げるとVO2Max・FTPの能力を要求される少人数の逃げは避け、ゴール前で勝負する展開に持ち込めば勝率が高くなります。
レース後半まで集団内に身を隠しゴール前になると一気に出てくるカヴェンディッシュやキッテルのような走りが彼の取るべき戦術です。
チーム監督からすれば「後先考えずに景気良く飛び出せ!」と言いたいところですし、彼のスプリント力を考えれば、一時集団を引き離すのは容易なことでしょう。しかし、「勝利」にこだわった時、彼が取るべき戦術は集団スプリント、もしくはゴール直前での飛び出しです。
5.強化を考える
まずはバランスを! |
出来上がったパワープロファイルを活用し、今後どのような強化を行っていけばよいのでしょうか?
上記の彼のように、ある程度バランスが取れていれば、個性を損なうことなく全体的な底上げをするのが適切です。
彼がバランスよく強化をして行ければ、ゴールスプリントに強いだけでなく、集団から飛び出し、少人数のスプリントにも勝てる選手に成長出来ることでしょう!
一方もし、あなたのパワープロファイルの中に、他のレベルと比べて極端に劣っているところがあれば、まずはそこに焦点を当てて強化しバランスを取るべきです。
例:5秒・1分・5分に比べて極端にFTPが低い場合、まずはFTPを強化する。
殆どの選手の特徴として「得意分野は伸びやすく不得意分野は伸びにくい」ということが言えます。そしてセルフ・コーチングを行っている場合、どうしても得意分野に偏ったトレーニングになりがちです。
学生時代を思い出してみて下さい。不得意教科を後回しにして、得意教科の勉強を優先しがちだったのではないでしょうか?
それでは得意分野の点数は伸びますが、全体的な得点は伸びません。
同じようにトレーニングでも、自分にとって得意=気持ちよく走れる領域を優先し、苦手分野をおざなりにすると総合力は伸びません。
そればかりか将来的には、得意分野の進歩を阻害する要因にさえなります。やはりバランスが大切です。
例:スプリントが得意なのにFTPが低すぎる為に、集団でゴールまで行ってもスプリントする力が残っていない。その場合は、まずはFTPを強化することでスプリント力が活きてくる。
実際のレースでは1回の出力の他にリピータビリティ(繰り返しの能力)や レースのメンバー、距離、地形、そして何より勝つための戦略(アタックのタイミング、アシストが居るか?、・・・etc)が複雑に絡んできます。
しかし、自分のタイプ(脚質)を知っておくことは、レース戦略を立てる上で重要なポイントになります。
ではロードでお会いましょう!
Peaks Coaching Group
ハンターアレン、中田尚志(共著)
ハンター・アレン…全米自転車競技連盟Level1認証コーチ。元プロ・ロード選手。1995年よりあらゆる種目のコーチングを手掛け世界チャンピオン、全米チャンピオンを始め1,000以上の勝利に貢献している。全米自転車競技連盟パワートレーニング講座の講師。
パワー・トレーニング・バイブル(原書:Training and racing with Power Meter)他、著書多数。
中田尚志…Peaks Coaching Group プラチナム認定コーチ。
25年に及ぶ日本・アメリカでのレース経験を持つ現役選手。バージニア州ベッドフォード在住。
日本ではロード・トラック・シクロクロスの全日本選手権出場経験があり、複数のUCIレースを完走している。
現在でも週末はPro/1/2レベルおよびマスターズでレースに参加している。
2013 全米自転車競技連盟主催パワートレーニングセミナー修了
さぁパワートレーニングを始めよう! Part6実践編①
前回のFTPテストでパワートレーニングを始める準備が整いました。
Photo credit: VeloNews |
しかし、FTPを測ったとはいえ今すぐトレーニングの全てをパワーベースのトレーニングに変える必要はありません。
そもそも「FTP105%で20分x 2 、AC30秒を6本、最後のテンポは90%FTPまで上げてみよう。」なんて言われても、自分にとって効果がある練習なのか分からないばかりか、何のことだか分からない方も多いはずです。
また今までのトレーニング方法から一気にパワートレーニングに移行する事に懐疑的な方や不安を感じ躊躇している選手もいるでしょう。
そんな場合は普段のトレーニングにパワートレーニングを少しずつ取り込んで行き、しっかりと効果を確認しながらトレーニングを進めて行くのが有効です。下記のメニューはデータ収集の役割もあり、今後トレーニングを進めて行くうえで必ず役立ちます。
メニュー1 MAXチャレンジ
月々のベスト・ワット数 |
既に皆さんの定番練習コースの中で、「あの標識から頂上までダッシュ!」「この山に来たらタイム計測」などのポイントがあると思います。
そういった場所でパワーを計測しましょう。
測る時間は下記の時間を参考にしてください。
距離で区切るよりも私は時間をお勧めします。その理由は、時間であれば世界中どこに居ても同じ条件で計測が可能な為、簡単に比較が出来るからです。
(1)スプリント 5~15秒
スプリント領域の最高ワット数の計測です。5秒・10秒・20秒の最大ワットを測りましょう。ベロドロームや人・車の来ない道路で計測しましょう。
自分が回し切れる最大のギアに入れ全力疾走開始です!
この領域はあまり細かい規定時間にこだわる必要はありません。5秒なら8秒程度、10秒なら12秒程度加速にかかるギアを見つけてモガキます。
その中でベストな5秒・10秒のワット数を後で抽出します。
5秒間の平均ワット数が、男性なら体重の20倍、女性なら15倍を超えたなら、十分スプリンターとして活躍して行けるでしょう。
例:体重60kgの男性なら1,200w 体重50kgの女性なら750w
余談ですが一流のトラックスプリンターなら25倍を超える出力を発揮します。
(2)アネロビック 30秒~2分(Anaerobic Capacity無酸素運動容量)
無酸素性能力の計測です。30秒・1分・2分と時間を区切りそれぞれの時間全開でモガキます。(それぞれ別で行います。)
前回測定したFTPの120~150%をマークする事を目標にします。
例:FTP300w 450wで30秒 360wで2分を目指す。
(3)VO2MAX 3~8分
最大酸素摂取量レベルの計測です。3分・5分・8分(それぞれ別で行います。)と時間を区切って走りましょう。ここで大切なのは最後まで踏み切ること!計測中最後の1秒・1ストロークまで全力でペダリングします。
途中飛ばし過ぎて最後はヘトヘトでは平均パワーは下がってしまいます。スタートから最後の1秒まで力強く走れるペーシングが大切です。
前回測定したFTPの106~120%を目指します。
例:FTP300w 360wで3分 318wで8分
(4)LT 10~60分
FTPテストというと身構えてしまいますが、定番練習コースの中で20分程度の峠を見つけ全開で走ってみるのも良いものです。意外とベストワット数を更新できるかもしれません。
前回測定したFTPの100~105%を目指します。
例:FTP300w 315wで10分 300wで60分
20分間の出力が、男性で体重の5倍、女性で4.5倍を超えたら、国際レースを視野に入れてトレーニングしても良いでしょう!
全ての領域で目標達成できたら素晴らしい!
もし、出来なければその領域のトレーニングを増やす必要があるかもしれません。
帰宅したらPCにデータをダウンロードして各最大パワーを記録しておきましょう。
今日記録したパワーは次回更新すべきパワーです!
年ごとのベスト・ワット数 |
これらのデータを蓄積していくことは良いトレーニングになるだけでなく、今後みなさんが自転車競技を続けて行くうえで貴重な「財産」になります。
「昨年の自分が、出力していたワット数は?」
「2年前の自分は? 3年前と比較すると?」
ずっと記録を取り続けて行けば
「40歳の自分は、いまでも28歳の時と同じ出力で走れてる!」なんて事に気づくかも知れません。
また一旦競技生活から離れた場合に「よし、ベストな時代の自分に戻ろう!」なんていうモチベーションを得てトレーニングに戻ることも出来るでしょう。
こうやってデータを蓄積し、パワーデータをモチベーションにトレーニングするサイクリストをData driven cyclist(データ・ドリブン・サイクリスト)と言います。
皆さんも是非、データを活用し、トレーニングのモチベーションにして下さい。
一番上の写真はツアー・オブ・ヒラで総合優勝、そしてATOC(ツアー・オブ・カリフォルニア)では総合11位に輝いたカーター・ジョーンズ選手です。
彼はU23時代からパワートレーニングに取り組み、UCI2.2のレースで総合3位(左写真)、カスケードクラシックで新人賞(下写真)など着実にステップアップを遂げてきました。
コーチであるスティーブ・マクレガーとカーターは長年お互いに協力しながら、少しずつパフォーマンスを高めて来ました。スティーブのPCにはU23時代から今日に至るまでのパワーデータが一つ残らず保存されています。
その記録は、また先の未来を創る為の資源となるのです。
パワーデータという財産は、プロツアーを目指す若者から、アンチエイジングを目指すマスターズの選手まで、かけがえのない財産となるはずです!!
ではロードでお会いましょう!
Peaks Coaching Group
ハンターアレン、中田尚志(共著)
ハンター・アレン…全米自転車競技連盟Level1認証コーチ。元プロ・ロード選手。1995年よりあらゆる種目のコーチングを手掛け世界チャンピオン、全米チャンピオンを始め1,000以上の勝利に貢献している。全米自転車競技連盟パワートレーニング講座の講師。
パワー・トレーニング・バイブル(原書:Training and racing with Power Meter)他、著書多数。
暑い日のライドについて Exercising in extremely hot weather
- 2014年08月1日
- 中田尚志ブログ
夏真っ盛りですね。
皆さんのお住まいの地域でも厳しい暑さが続いていることと思います。
アメリカでも日本以上に暑くなる場所があります(デスバレーでは50℃を超えます!)。
そこで今日は暑さ対策についてご紹介しましょう。
夏のダメージをシーズン終盤に持ち越してしまわぬよう入念に対策をしましょう!
(1)トレーニング内容
たった10分のライディングで体内温度は1℃上がると言われています。体内温度が上がれば、体温調整の為に心拍数は上がります。
それは、いつもと同じ心拍数で走ってもパワーは下がっていることを意味します。身体を少しでもクールに保ち練習効果を上げる努力をしましょう。
- エンデュランス走を高めの領域で行う。…夏場はエンデュランス(PowerZ2 FTP56-75%)を高めの領域で行い走行時間を短縮しましょう。高いエンデュランス領域(FTP70%程度)でトレーニングする事で、低い領域(FTP60%以下)で長時間トレーニングするのと同様の効果を得られることが分かっています。暑さの中、低強度・長時間走り込むとトレーニング効果よりもダメージの方が大きくなってしまいます。
- インターバルトレーニングを取り入れる。…夏場はクリテリウムや短時間のロードレースが多くなります。それらの為に高強度・短時間のインターバルトレーニングを取り入れましょう。
夏のトレーニングメニューはブログ最後に紹介します。
(2)コース選び
コース選びを工夫することで随分と気温に差が出るものです。トレーニングメニューに合わせてクリエイティブなコース作りを行いましょう!
日陰・水辺・時間・標高を考慮してコースを作ろう! |
- 日陰が多いコースを選択…夏場直射日光が当たる路面の温度は60℃にも達します。日陰のないサイクリングロードのような場所だと、サイクリストは60℃の路面と37℃の気温にサンドイッチされて走ることになります。サンドイッチに挟まれたベーコンみたいになってしまわぬように直射日光を避け、日陰を選んで走りましょう。 日本は森が多く一旦山の中に入ってしまえば、案外日光を避けて走れるものです。木陰の地表温度は通常気温よりも2-3℃低いと言われています。
- 水辺を走る…山間部に流れる川沿いの道を見つけて走りましょう。流れる川が涼しい風を運んでくれます。また水を張った田んぼの多い所も暑さを和らげる風を運んでくれます。
- 標高が高い所を走る…一般的に標高が100m上がると気温は0.65℃下がると言われます。しかし自転車の場合、標高が高い場所の方が緑が多く道路やビルの輻射熱が減る為、それ以上の冷却効果が期待できます(図参照)。
- 避暑地に行く…上記の方法では「焼け石に水だ!」と思ったら、長野県・北海道などの涼しい地域にバカンスがてら走りに行くのもお勧めです。実際、暑い時期に家族を連れて避暑地でトレーニングするプロ選手は多く居ます。北海道まで行かなくても2~3時間ドライブするだけで、緑が多く涼しい所が見つかるかもしれません。例えば京都市の8月の平均気温は29℃ですが、たった60㎞しか離れていない美山町では25℃です。
(3)時間帯
- 涼しい時間を選んで走りましょう。日本の京都を例にとると、夏場の朝夕の気温差は10-15℃程度あります。朝・夕の2回に分けて走るのも良いアイデアです。
(4)装備
- 水分…運動中1時間に1~2L発汗で水分を失います。ダブルボトルを装備して出かけましょう。発汗により体重の1%を失うとエアロビック能力は落ち、5%失うと熱痙攣を起こすと言われています。水分補給は15分ごとを目安にこまめに行いましょう。スタート前にグラス一杯の水を飲みましょう。予め水分を補給できる場所(コンビニなど)をチェックしておくのも大切です。水分補給を忘れないために15分ごとにアラームが鳴るようにしておくのも良いアイデアです。ボトルの水を顔や首筋にかけて冷却するのも効果的です。
- 補給…猛烈な暑さの中では食欲が失せるのも当然です。しかし、人間は出力の約4倍を排気熱として消費します。200wattsで巡航している時、同時に800wattsの廃棄熱を発しているのです。暑さの中では排気熱は更に増えます。エネルギー切れを防ぐためライド中こまめに炭水化物・タンパク質を補給しましょう。また発汗で失う塩分・ミネラルを補給するのも忘れずに。
- 日焼け止め…SPF(紫外線防御指数)、PA(UVA波防御指数)が共に高い物を選びましょう。ロードを走るサイクリストにはSPF50、PA+++がお勧めです。また日焼け止めは、乳液やジェルタイプのものを使いましょう。オイルベースのものは発汗を阻害してしまうので避けるべきです。サイクリストの日焼けスポットである前腕・上腕・膝そして首の後ろ側にしっかりと塗りましょう。
- サングラス…紫外線から目を守るだけでなく、体感的に涼しさを感じる効果もあります。
- アイシング…熱を持った筋肉は回復が遅れがちになります。頭・首筋・胸・筋肉を中心にアイシングを行い回復を促進しましょう。
- 栄養補給…練習中に水分補給を行っていてもトレーニング後、体重が2-3%減ってしまうこともあります。次の日には体重が元に戻るように練習後もこまめに水分を補給しましょう。しかしアルコールは厳禁!アルコールは水分を奪います。誘惑に耐えきれない時は、ノンアルコールビールでしのぎましょう。
(6)暑い日のトレーニングメニュー(エリートレーサー向け)