どうすればバイクは速く進むのか? Part1 理論編


「バイクを速く走らせたい」「もっと楽にバイクを進ませたい」と思うのは自転車に乗っている方なら誰しも同じなのではないでしょうか?

雑誌やインターネットには速くなれそうな情報が溢れていて、何から手をつければ良いか分からない方もいらっしゃるかと思います。

そこで、今日は「バイクを速く走らせるために必要な条件」について考えてみたいと思います。
 
 
バイクのスピードを決めるファクターは、大きく分けるとたったの二つです。
ひとつはバイクを前に進ませる力、もうひとつはバイクを止める力です。
 
 
バイクを前に進ませる力の総称をエフェクティブ フォースと呼び、バイクを止める力の総称をネガティブ フォースと呼びます。
バイクのスピードは、このエフェクティブフォースとネガティブフォースの差で決まると言えます。
 
 
 Effective Force - Negative Force = バイクのスピード”
 
 
ここからエフェクティブ フォースを増やし、ネガティブ フォースを減らすことがスピードアップに繋がることが分かります。
 
 
 
Effective Force(エフェクティブ フォース)・・・バイクを前に進ませる力
私たちがバイクに跨ってペダルを漕げば踏力が発生し、自転車は前に進んで行きます。レースの世界では自身のエフェクティブ フォースを増やし、ライバルのエフェクティブ フォースを削ることが勝つ条件になります。
 
エフェクティブ フォースを増やす方法
・トレーニングによって、踏力を増やす。…脚力強化
 
・トレーニングによって、効率を上げる。…ペダリングの改善・減量
 
・ポジションによって、効率を上げる…クリート・シート高・ハンドル高などの最適化
 
・ペダリング環境の改善…ハンドル・サドル・シューズ・ウエアなどを最適化
 
・戦術によりライバルに足を使わせる…相対的に自身のフォースが増える。
 
 
 
 
 
Negative Force(ネガティブ フォース)・・・バイクを止める力
バイクが進みだした瞬間からバイクを止めようとする力(ネガティブ フォース)が発生します。
レースの世界ではライバルよりもネガティブフォースを減らす(時にはライバルにネガティブ フォースを与える)ことが勝負を有利に進めることに繋がります。
 
ネガティブフォースを減らす方法
・空気抵抗の削減…エアロポジションの研究、ホイール・フレームなど機材の変更、またロードレースで空気抵抗が最も少ない場所にポジション取りする。もしくはライバルを風上に置く。
 
・重力…ライダーの減量、バイク重量の削減、雨で重くならないウエアの採用、MTBレースでは泥が付着しにくいコーティング剤の採用
 
・路面抵抗の低減…タイヤの変更・空気圧の最適化。

・路面のギャップ…路面の段差は、失速の要因です。その為、ギャップをいなしてくれるホイール・フレームはネガティブフォースを減らし結果的に速くなります。ライダーが体重移動でうまく段差を超える技術もこれにあたります。

 
・機械抵抗の低減…踏力はシューズ、ペダル、チェーン、ホイールを経て初めて路面に伝わります。この過程の損失を減らすことにより、ネガティブフォースが減ります。バイククリーニング(実際に効果がある!)、セラミックベアリングの採用。
 
 
改善内容を上記の項目に分けて考えると、レースに向けて最も効率的な改善方法が見えやすいのではないかと思います。

次回は、「バイクをより速く進める為の投資」について考えてみたいと思います。

 
中田尚志…Peaks Coaching Group プラチナム認定コーチ。
パワー・トレーニング・バイブル(原書:Training and racing with Power Meter)の著者、ハンター・アレン(Hunter Allen)氏のもとでパワートレーニングを中心にコーチングを学ぶ。
25年に及ぶ日本・アメリカでのレース経験を持つ現役選手。バージニア州ベッドフォード在住。現在でも週末はPro/1/2レベルおよびマスターズでレースに参加している。2013 全米自転車競技連盟主催パワートレーニングセミナー修了

 

シーズン前半のトレーニングについて Part2 ケーススタディ 社会人レーサー編


前回は春のトレーニングのフォーカスについてご紹介しましたが、今回は実際のケーススタディを見ながら実例をご紹介したいと思います。

宇都宮クリテでの西沢選手 撮影 高木秀彰

春のトレーニングフォーカス

(1)VO2Maxパワー/反復能力の向上
(2)ACパワー/反復能力の向上
(3)レースに応じた能力の向上
(4)戦術・ライディング技術の向上

これらのトレーニングフォーカスを個々の練習環境(トレーニング時間・交通事情・選手個々の能力)に合わせてデザインして行くのはコーチの仕事ですが、コーチが居ない場合は、選手は自分自身でレースまでの期間や仕上がり具合を見ながらトレーニングを計画して行きます。

PCGでコーチングさせて頂いているシエルボ奈良所属の西沢倭義(にしざわ いより)選手を例に見て行きましょう。
彼は冬~春のトレーニングを成功させJプロツアー開幕戦「第2回 宇都宮クリテリウム」を12位でフィニッシュ、チャレンジロードの最高峰A-Eクラスも完走し全日本選手権の出場権を獲得しています。

西沢選手は昨年大学を卒業し、まだ社会人2年目の選手です。
彼は学生時代に学生チャンピオンになったほどの選手でしたが、昨年は環境の変化や練習時間確保の難しさから、得意のクリテリウムでも予選落ちを喫するほど低迷してしまいました。

シーズン最終戦であったツール・ド・おきなわもリタイアに終わり沖縄の海を眺めながら「もう二度と同じようなシーズンは過ごしたくない。」と考えた彼は東京に戻ってすぐパワータップを導入し、PCGと契約します。

完全にパワートレーニング初心者だった彼が最初に行ったのは、FTPテストです。

2014/12/25 FTPテスト 20分 264w
264w x 0.97≒FTP256w ←ローラーでは実走よりもパワーは低くなる為、通常の0.95ではなく0.97を掛けます。

こちらをスタート地点として、東京の交通事情、仕事とのバランスを考慮し宇都宮クリテリウムに照準を合わせてトレーニングを行いました。

平日は仕事・東京の交通事情を考慮し、トレーニングは全てローラーです。

(1)VO2Max、(2)ACパワー/反復能力の向上
社会人レーサーにとって難しいのは言うまでもなくトレーニング&リカバー時間の確保です。

彼の場合も同様で平日トレーニングに割ける時間は多くの社会人レーサーと同じ30分から1.5時間(週5-13時間)。

プロ選手は通常毎日2-6時間(週13-25時間)トレーニングしますから、限られた時間でプロ選手に対抗しうるパワーをつける必要があります。

またトレーニングに割ける時間は限られていますから、春先プロ選手が行うような週ごとに少しずつ時間と強度を伸ばす方法を適用するには無理があります。
その為、与えられた時間の中で各パワーゾーン毎の強度の比率を変えて行くのが最も現実的で確実な方法になります(下図参照)。

プロとアマの強度比率イメージ

また時間の無い社会人レーサーにとって自転車に乗ってから「さて今日は何をしようかな?」と考える時間はありません。綿密にワークアウトの計画を立て、一度ローラー台に飛び乗ったら計画どおりにワークアウトを実行する必要があります。
幸いローラー台は天候・時間に左右される事なくトレーニングが出来ますから、計画的に毎週少しずつ負荷を増やして行けます。

実際のワークアウト
1/7
FTP 3 x 10min
VO2Max  3 x 2min
合計 1h24m, TSS 94

2/4
SST(88-94% of FTP) 1 x 20min
VO2Max 4 x 3min
合計 1h06m, TSS 93

2/28
SST w/ バースト 1 x 20min
クリスクロス 1 x 20min
1 x 10min マイクロバースト
合計 1h22min TSS 106











TSS・・・トレーニングの強度と時間を表わす数値。1時間の全力TT=100TSS




(3)レースに応じた能力の向上
クリテリウムは、(5-20秒のダッシュ)/レストの繰り返しで、さながら1時間続くインターバルトレーニングのようです。
激しくケイデンスは変化し、ダッシュ時のケイデンスは(90-105rpm)とかなり速くなります。

その為、一人でトレーニングを行う場合でも、このような(ダッシュ/レスト)の繰り返しをシュミレーションしておく必要があります。下記のトレーニングではクリテリウムの激しいパワーの変動を再現する為に各種のインターバルを行っています。



クリテリウムはダッシュの連続























2/28 SST w/ バースト(短いダッシュ) 、クリスクロス、マイクロバースト
・SST w/ バースト 
スイートスポット(88-94%FTP)での巡航中に2分に1回10秒のバーストを入れて20分


・クリスクロス
SSTで巡航中2分に1回30秒間FTPの120%までペースを上げる。
30秒が経過したら、もとのペースに戻す。(しかし85%以下に下げてはいけない!)  


・マイクロバースト
30秒ON-30秒OFFの繰り返しを10分間!
ON・・・ 150%FTP
OFF ・・・50%FTP


トレーニング時もダッシュの連続を再現





(4)戦術・ライディング技術の向上
レースの戦術を磨くのはレースに出るのが最高ですが、彼の場合2月・3月は休日出勤が多く、週末に仲間とグループライドを行うことさえ難しい状況でした。
その為、今回はローラー台の上でもペダリング技術を磨けるワークアウトを多く入れました。


彼はトラック出身の選手であり、ハンドリングスキルについて心配は要りませんでした。しかしペダリングについてはグループライドが出来ない為、脚に集団走行でのペダリングを思い出させる必要がありました。

彼のSST(88-94% of FTP) w/バーストのパワーファイルを見てみましょう。

SST w/ バーストは、SSTの中にダッシュを繰り返し入れる事で、ダッシュ直後にSSTの強度で足を回復させる=何とか足を貯める能力 を磨く事が出来ます。

パワーデータを見ると1本目はバーストのパワー、レストのパワーともに安定していません。これはSSTの間に上手く足を貯めるペダリングが出来ていない為、回復が間に合わず次のスプリントに準備が出来ていないからです。

しかし2本目はパーフェクトに軌道修正しているのが見て取れます。バーストは回を追うごとに力強くなり、SSTのパワーは高い位置で安定しています。これはSSTの出力の中で、足を回復させるペダリングを掴んだ為、スプリントに備えて高い出力の中でも足を貯めることが出来ているからです。

この方法は成功し、レースでも上手くプロ選手と調和して走ることが出来ました。もちろんローラーで全ての実走テクニックを磨く事は不可能ですが、ペダリングに関してはローラーでのトレーニングであってもライディング技術の向上を図れる一例と言えるでしょう






上記の4点に主眼を置きながらトレーニングを行い2月上旬には20分289w(≒FTP274w +18w, +7%)までパワーアップ、そしてシーズン初戦となった宇都宮クリテリウムでは、12位の成績を収める事が出来ました。

ちなみにレースの週は色々な事情が重なりトレーニング出来たのは、たったの2回。
その内1回は1時間、そしてもう1回は8分(!!)でした。


それでも、好走できたのは彼の才能とモチベーション、そして綿密なトレーニング計画と実行力にあったと言ってよいでしょう。



もちろん簡単なことではないものの、計画を練り、レースに要求される能力に焦点を絞ったトレーニングを遂行すれば、社会人の限られた練習時間でも国内最高峰のクラスでレース活動を行うことは可能だということを彼の走りは示しているといえるでしょう。




12位でフィニッシュ 撮影 高木秀彰

彼のトレーニングを支えるパワータップ



中田尚志…Peaks Coaching Group プラチナム認定コーチ。
パワー・トレーニング・バイブル(原書:Training and racing with Power Meter)の著者、ハンター・アレン(Hunter Allen)氏のもとでパワートレーニングを中心にコーチングを学ぶ。
25年に及ぶ日本・アメリカでのレース経験を持つ現役選手。バージニア州ベッドフォード在住。現在でも週末はPro/1/2レベルおよびマスターズでレースに参加している。2013 全米自転車競技連盟主催パワートレーニングセミナー修了


シーズン前半のトレーニングについて Part 1


全国各地でレースが始まり既に数レース消化した方も多いかと思います。
レースに出ることで冬のトレーニング結果を確認する事が出来ますし、本格的なシーズンに向けての課題も見えてくると思います。

今回は、レースに向けた春のトレーニングをご紹介したいと思います。


多くの選手にとってロードレースシーズンは3月に始まります。
12月から2月頃までは前回ご紹介した下記の4点にフォーカスしてトレーニングし体力アップを図りますが、一旦レースが始まるとより実戦に即したトレーニングに移行していく必要があります。

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冬のトレーニングのフォーカス

 (1)FTPの向上
 (2)筋力アップ
 (3)弱点強化
 (4)休養
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冬の間に上記の強化を行った後に行うべきはレースに勝つために必要なFTPを超える能力(VO2Max, Anaerobic Capacity, スプリント)の強化です。

まずは1本で出し切る絶対的なパワー(Absolute Power)。そして、FTPを何度も超えるアタックやペースの変化に耐えうる反復能力(Repeatability)の二つを強化する必要があります。

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春のトレーニングのフォーカス
 (1)VO2Maxパワー/反復能力の向上
 (2)ACパワー/反復能力の向上
 (3)レースに応じた能力の向上
 (4)戦術・ライディング技術の向上
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(1)(2)VO2MaxおよびACパワー/反復能力の向上
春先のレースはロードレースでもアマチュアなら通常3時間以内で短く激しいものが多いです。
これはVO2Max(Power Z5 106-120% of FTP, HR Z5, RPE 6-7)、Anaerobic Capacity (Power Z6 121-150% FTP, HR Z6, RPE >7)(以下AC)の能力を多く要求されることを意味しています。

これらの強化法としては最初は3 x 2分(レスト3-5分)程度のインターバルから始めて週ごとに負荷を増やし4 x 4分(レスト3-4分)程度まで延ばして行きます。

レースでは高い強度の能力が必要










(3)レースに応じた能力の向上
春先、足はまだ全ての種類のレースに対応できるほど仕上がっていない場合が多いですから、狙うレースにフォーカスした能力を向上させることが必要です。
まずベーシックなインターバルトレーニングでVO2Max/ACの強化を行った後、次のステップとして狙うレースに合わせたトレーニングを行います。

狙うレースがクリテならACパワーとリピータビリティ、丘陵地のロードレースならVO2Maxトレーニングと各レースに必要とされる能力を中心に強化することでレースに対応できる脚を作ります。
またケイデンスも重要なポイントですから、より実際のコースに近い地形で、実際のレースに近い強度でレースをシュミレーションすることが有効になります。

・クリテに必要な能力・・・(5-20秒の加速)/レストの繰り返し=HIIT(高強度インターバル) + 高い有酸素能力
ケイデンスは高め(90-100rpm)

レースに対応する為のトレーニング(クリテ)

・丘陵地のロードレースに必要な能力・・・(1-5分の登り)/レストの繰り返し=VO2Max or ACインターバル + 高い有酸素能力
ケイデンスは低め(80-90rpm)

レースに対応する為のトレーニング(ロード)






(4)戦術・ライディング技術の向上
プロ・アマに限らず殆どの選手は冬の間一人もしくは二人でトレーニングすることが多く、前年最後のレースからは大集団で走っていないことが多いです。

その為、他の選手の後ろについて休む技術、微妙なペースの変化に対応する能力、そして何より集団全体の空気(この後ペースが上がるのか?下がるのか?アタックがかかるのか?沈静化するのか?落車が起こりそうか?優勝候補は集団のどこで何をしているのか?・・・etc)を読む能力を早く取り戻さなくてはなりません。

また春先のレースは、各選手まだ集団での位置が定まらず、我先に集団の位置取りをする為に落車が多いです。また天候の不安定さやライディング技術が未熟な選手が集団の先頭に上がろうとすることで落車がおきます。
落車を予知する能力、起こった落車を避ける技術、そして冬の間に養った身体能力を活かす戦術を身に着けておくことが春先はより重要になります。

もし可能であれば狙うレースの前に1~2レース走りレース勘を取り戻しておきたいところです。
またグループライドや仲間とのトレーニングでテクニックを磨くのも良いでしょう。グループライドは集団走行を行うにあたってのマナー、グループ走行での交通ルールの遵守の方法が学べるのでお勧めです。

アメリカで行われているグループライド、Wednesday Worlds(水曜日の世界選!)


Wednesday Worldsのルール
・交通ルールを守ろう
・キープ ライト(アメリカは右側通行です)
・ヘルメットをかぶろう
・全力を尽くして楽しく走ろう
・1列または2列のペースラインで走ろう
・ニュートラルセクションではアタック禁止
・もし苦しくて上手くローテーションが回せないと感じたら後ろにつくだけにしよう。

充分なエアロビックベースが構築出来ていれば、上記に挙げたVo2Max、ACは6-8週間あればかなり改善することが出来ます。


次回は、実際のケーススタディをもとにトレーニングの実例をご紹介します。

中田尚志…Peaks Coaching Group プラチナム認定コーチ。
パワー・トレーニング・バイブル(原書:Training and racing with Power Meter)の著者、ハンター・アレン(Hunter Allen)氏のもとでパワートレーニングを中心にコーチングを学ぶ。
25年に及ぶ日本・アメリカでのレース経験を持つ現役選手。バージニア州ベッドフォード在住。現在でも週末はPro/1/2レベルおよびマスターズでレースに参加している。2013 全米自転車競技連盟主催パワートレーニングセミナー修了