シマノ鈴鹿 チームタイムトライアルのパワーデータ
- 2015年08月1日
- 中田尚志ブログ
週末は日本各地で沢山のレースが開催されました。
シマノ鈴鹿のチームタイムトライアルに出た選手もいらっしゃるかと思います。TTTは自転車競技に必要なスピード・ペース配分・チームワークの要素が詰まっている種目です。
ケイデンス
ケイデンスは一般的に個人TTの方が低くチームTTの方が高くなります。
・個人TT・・・ケイデンス100-105rpm 34.6%
・チームTT・・・ケイデンス95-100rpm 28.6%
鈴鹿チームTT
では鈴鹿を走ったアマチュア選手のデータを見て行きましょう。
レース時間・距離・コース・選手数(鈴鹿は4人)によって変動があるので、一概にTDFと比較は出来ませんが、AC領域で27.8%、ケイデンス95-100rpmで29.5%は充分な頑張りと適切なケイデンスだったと言えます。
更にラップとパワーを見て行きましょう。
公式ゴールタイムは33:42(AVG Lap 8:25)
平均ペースで回るとすると8:25のラップを刻めば良いことになります。
実際のラップと8:25秒に対する差
1st 7:52 -37sec
2nd 8:35 +10sec
3rd 8:40 +15sec
4th 8:34 +9sec
1周目はゼロ発進にも関わらずハイペースを維持し37秒を稼ぎ出していますが、2周目以降は貯金を失っているのがタイムから分かります。
ではここにパワーを追加して見てみましょう。
3周目、この選手はAVGパワーを大きく落とした割にラップは落ちていません。
これは引けなくなって後ろに回りがちだったことを表わしています。
こうなると他の3選手の負担は増えていますから、4周目にペースを維持するもしくは上げるのは難しくなります。
これらから1周目はチーム全体でもう少しペースを抑え、3周目に全員がしっかり引けるように持って行った方がタイム短縮できる可能性が増えることが分かります。
具体的には1周目は8:25を設定タイムに使い、少なくとも2周目完了地点まではNPはFTPの107%程度あたりを狙った方が良いでしょう。
3周目・4周目以降は8:25を切れるようにペースを上げて行きます。(この時はパワーメーターは気にせず、感覚に従いながら限界に挑戦した方が上手く行きます。)
このようにレース後、タイムとパワーの関係を見直すことで、次回のレース戦略を練ることは大切です。
またトレーニング時はコースを似せることでパワーゾーンの分布、ケイデンスをシュミレーションしておくことも大切です。
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パワー・トレーニング・バイブル(原書:Training and racing with Power Meter)の著者、ハンター・アレン(Hunter Allen)氏のもとでパワートレーニングを中心にコーチングを学ぶ。
25年に及ぶ日本・アメリカでのレース経験を持つ現役選手。バージニア州ベッドフォード在住。現在でも週末はPro/1/2レベルおよびマスターズでレースに参加している。2013 全米自転車競技連盟主催パワートレーニングセミナー修了
パワートレーニングを始めよう Part1 トレーニング用語辞典①
- 2015年06月3日
- 中田尚志ブログ
日本でもパワートレーニングを始めたいという方が増えて来ました。
ただパワーメーターに興味はあるものの…
「専門用語が分からない。」
「FTPを上げたらレースに勝てるようになるの?」
などの疑問を持っている方が多いように思います。
そこで今回からシリーズで「パワーメーター活用法」を連載してみたいと思います。
パワートレーニング用語について(FTP, パワーゾーン, MMP, TSS, kJ)
パワートレーニングを始めるにあたって、知っておいて頂きたい用語がいくつかあります。これらを理解することによって、より簡単にパワートレーニングを実行出来るようになりますので、順番に覚えて行って頂ければと思います。
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・FTP … 1時間の全力疾走のAVGパワー
有酸素能力の上限レベルを測る指標。高いほど有酸素能力が高い。1時間のテストは肉体的・精神的負荷が高い為、通常20分テストの95~97%をFTPとみなす。
例:20分テストのAVG315w ⇒ 315w x (95~97%) = FTP 300~306w
FTPは有酸素能力の限界を測る指標になるだけでなく、パワーゾーン設定の基準になります。また後に登場するTSSやPMCをつくる元となります。
ちなみに「FTPが上がればレースに勝てるか?」ですが答えは「NO」です。
レースはFTPだけでなく、エンデュランス能力・VO2Max・スプリントなどの各パワーと回復力、更に脚質・戦術・チーム力などあらゆる要素が絡み合って結果が出ます。
FTPが上がれば勝つ可能性が上がるのは間違いないですが、それだけで結果を求めるべきではありません。極端にFTP強化だけに偏った強化をするのではなくレースで要求される能力をバランス良く強化すべきです。
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・パワーゾーン … FTPを基準に設定する7つの運動強度
パワートレーニングではアンディ・コガン博士が設定した7つのゾーンに分けて、トレーニングを行います。目標とするレースの種類、各個人の脚質に合わせて、フォーカスするパワーゾーンを把握するのが大切です。
ハンター・アレンの言葉を借りれば「トレーニング成功の秘訣は、パワーゾーンに割り当てる時間の最適化」です。
パワーゾーンチャートのダウンロードはコチラ
https://files.secureserver.net/0seLpJPsQbFPXW
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・MMP … 平均最大パワー (Mean Maximal Powerの略)
各時間単位(通常 5秒・1分・5分・20分)のMaxパワー。
通常パワーゾーンの スプリント、アネロビック、VO2Max、FTPに分けて計測します。
皆さんがトレーニングを行う中で「最近スプリントのかかりが良い」とか「丘は走れるけど、峠はダメ」といった会話を仲間内ですることがあると思います。
これはまさにMMPの話で「スプリントのかかりが良い」時に5秒のMMPを測ると高い数値が出るはずですし、「丘は良く、峠はダメ」な時は、VO2Maxは高くFTPは低いはずです。このようにMMPを各パワーゾーンごとに把握することで、自身のトレーニングの進捗具合をより詳細に把握することが出来ます。
左の図は2014年と2015年の冬のMMPを比較したものです。
2014年 … 破線
2015年 … 黄色実線
殆どの時間帯は前年と同レベルにありますが、20-60秒は大きく劣っていることが分かります。
ここから前年にならぶにはアネロビックレベルのトレーニングを増やす必要があることが分かります。
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・TSS … トレーニング ストレス スコア(Training Stress Scoreの略)
強度(インテンシティ)と量(ボリューム)を一元管理できる。
FTPを基準に体にかかったストレスを表す。FTPで1時間運動=100TSS
例えば100㎞を5時間かけて走ったとします。距離と時間はどちらも量(ボリューム)を表わしていて、強度を表すことは出来ません。
例えば山岳コースを100㎞5時間集中して走ったのと、サイクリングコースを100㎞5時間流したのでは距離と時間は同じでも強度は全く違います。
TSSであれば前者は例えば300TSS、後者は200TSSと強度を加味して表示されます。
例:5時間のトレーニングが300TSSだった。 ⇒ 1時間の全力疾走3本分の運動ストレスがかかった。
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・kJ(キロジュール) … 運動により消費したエネルギー量
パワートレーニングでは 1 Cal ≒ 1 J として計算します。
パワーメーターはライダーが生み出すパワーをダイレクトに測りますから、心拍などから推測するカロリー消費量よりも遥かに正確にエネルギー量を計測できます。
また時間に影響されない為、簡単に消費すべきカロリーを計算することが出来ます。
例えばダイエットを行う場合、脂肪を1kg落とすのに何時間走れば良いかを計算することは出来ません。強度が関係するからです。
しかし、kJであれば実際に産出したエネルギーですから簡単に計算する事が出来ます。
脂肪1kgのカロリーは約7,000kcalですから、自転車で7,000kJ消費すれば体重は1kg減る計算になります。
ここでおや?と思う方も居るかもしれません。本来エネルギーの法則によると 1 Cal = 4.184 J だからです。
1 Cal≒1Jとして扱う理由:
人の体は、産生カロリーに対し約4倍のエネルギーを消費します。(1Calエネルギー産出するのに、4Cal消費)。
例: 2時間のトレーニングで1,200kJ消費した。
1,200kJ≒300kcal
300kcal産出する為に体が消費したカロリーは 300 x 約4倍 =1,200kcal
その為、1,200kJ≒1,200kcalとして扱う。
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ここまでご紹介したFTP・パワーゾーン・MMP・TSS・kJ の5つが、まずは覚えて頂きたいトレーニング用語です。
パワートレーニングを行っていない方には専門的で難解だったかもしれませんが、トレーニングを行うと、非常に実用的で便利なことが分かって頂けると思います。
補足
パワーメーターの登場により自転車を漕ぐパワーと消費エネルギーはダイレクトに測れるようになりました。全てのスポーツでリアルタイムにこれらの計測が出来るのはサイクリングだけです。
エンデュランス スポーツの中でも頭抜けて競技時間が長い為、トレーニングの研究が難しかったサイクリングが一気にスポーツサイエンスの最先端に躍り出たのはパワーメーター登場の恩恵です。
次回は更に深くパワートレーニングを行う為の用語解説を行いたいと思います。
新方式パワータップを先行予約頂いた方にPCGのトレーニングプラン・コンサルタントが無料でついてきます! パワーメーターの購入を考えている方はこの機会に是非、パワートレーニングを体験して下さい!
パワー・トレーニング・バイブル(原書:Training and racing with Power Meter)の著者、ハンター・アレン(Hunter Allen)氏のもとでパワートレーニングを中心にコーチングを学ぶ。
25年に及ぶ日本・アメリカでのレース経験を持つ現役選手。バージニア州ベッドフォード在住。現在でも週末はPro/1/2レベルおよびマスターズでレースに参加している。2013 全米自転車競技連盟主催パワートレーニングセミナー修了
どうすればバイクは速く進むのか? Part2 効果的な投資編
- 2015年06月2日
- 中田尚志ブログ
前回はバイクのスピードを決める要素エフェクティブ フォースとネガティブ フォースについて考えてみました。
今回は、この二つを改善する為の効果的な投資について考えてみます。
クルマに例えるとレースの勝敗を決めるのは、エンジンの出力でありドライバーの技術です。
同じようにバイクのスピードを決めるのはライダーが生む推進力であり、操るテクニックです。
まずは絶対的なエフェクティブ フォースを増やすことが先決です。
ネガティブフォースを減らすことは、損失が減る為、結果的に速くはなりますがペダルに与えるパワーが増えるわけではありませんから、勝利を決定づけるファクターにはなりにくいのです。
エフェクティブ フォースを増やす方法
(1)トレーニング
エフェクティブ フォースを増やすためには、何をおいてもまずはトレーニングです。パワーメーターをお持ちであればMMPの更新(5秒、1分、5分、20分などのパワー)、なければトラックでタイムを測っても良いですし、登りでタイムを測っても良いでしょう。
これらを元にトレーニング戦略を立て、エフェクティブ フォースを増やして行きましょう。
(2)戦術・ライディング テクニック
レースや練習会に参加し、ライバルとの駆け引き、集団でのポジショニングについて研究することは、エフェクティブ フォースを増やしネガティブフォースを減らす取組みと言い換えることが出来ます。最初は特にスクールに参加するのをお勧めします。
トレーニングではとんでもない強さを発揮し、レースでもアタックを繰り返すのに勝てない選手をアメリカでは “ワット・ウェイスター(Watts waster…ワット数の浪費家)”と呼びます。限りあるパワーを有効に使う方法を学ばなければなりません。
(3)ポジション
シートやハンドル、クリートのポジションを細かく調整し、ペダリングの踏力・効率・環境の改善を図ることで出力は増えます。下記の3点にフォーカスし、かつ全体のバランスをとって行きます。
1.最もパワーが出るポジション
2.パワーが持続出来るポジション
3.リラックス出来るポジション(回復が速くなり結果的にパワーが増える。)
この作業はフィッティングを受けたり経験豊かな選手にポジションについて尋ねるのも大切です。 ”自身が一番良いと思っているポジション” と ”実際に一番速いポジション” は違うことの方が多いですし、独走とグループライドでもポジションは違います。
バランスが大切ですから、”独りよがりなポジション”にならないようにすることが大切です。
また自転車はクルマと違って生身の人間が操りますから最適なポジションは常に変化します。パワーアップすれば最適なポジションも変わっていくのが自然ですから定期的にチェックすることが必要です。
(4)チューニング
レース当日にエフェクティブ フォースを最大にする作業=エンジンの性能を引き出すチューニングを行います。トレーニング量を減らし疲労を抜き、栄養摂取に気を配りマッサージや整体などを受けてベストな万全な体調で挑めるように調整します。
ネガティブ フォースを減らす方法
こちらは主に機材投資になります。資金が有り余るならチームskyのように”マージナルゲイン”を狙って、科学の粋を集めた最速のパーツで固めれば良いですが、一般的なレーサーにとって機材にかけられる資金は限られています。ですから効果的な投資を順序立てて考える “投資戦略” もレーサーに必要な能力と言えます。
機材への投資を考える場合、一番簡単で確実な目安は「順位が変わるかどうか?」です。
50万円かけて100g軽いフレームを買うことが本当に順位を変えるのか?プロツアーの選手が使うのと同じ機材を買うことが実際に順位を上げる投資なのか?を判断しなければなりません。
プロの世界でも最高級のパーツを使うプロツアーチームに中級グレードのパーツを使うプロコンチの選手が勝つことはよくあることですから、パーツのグレードアップも順位が変わる投資かどうかを判断してから行うべきです。
(実際アメリカのプロコンチの選手は、かなりの選手がシマノ・アルテグラもしくはSRAM Forceを使用しています。)
私がお勧めする機材投資の順番
(1)ハンドル・サドル・シューズ・ウエアに投資…エフェクティブ フォースを増やす為。また快適なウエアは運動効率を上げる。
(2)ヘルメット・タイヤ…価格の割に空気抵抗の削減効果が大きいヘルメット、安全に関わるタイヤ。これらは比較的安価で費用対効果が大きい。
(3)セラミックベアリング・ホイール・フレーム…ネガティブフォースの削減に投資し”マージナルゲイン”を狙う。
上記以外に私はプロのバイクメンテを受けることを強くお勧めします。
最近のバイクは、一見3, 4, 5mmのアーレンキーがあれば組み上がってしまうように思いがちですが、事実は違います。
BBやRD、FDなどの各パーツは単に組み付けただけでは精度が出ていないことが殆どです。
「プロ」が組んだバイクは、パーツ単体ではなく自転車トータルとしての精度が上がっている為、驚くほど良く進みます。
アマチュアが組んだD/Aのバイクより、プロが組んだアルテグラの方が進むことはよくあります。
投資効果の測り方
投資効果は「タイム」と「レースの成績」で判断し(機材を購入した後でないと分からないところに難しさがありますが・・・)次なる投資戦略を考えて行くのが良いと思います。
また投資額に対するタイム短縮を計算し費用対効果をチェックするのも有効です。
タイム短縮の費用対効果計算
投資額 ÷ タイム短縮(秒)=費用対効果
計算例:
3万円のフィッティング ÷ 2秒短縮 = 1.5万円/秒 (1秒短縮に15,000円投資)
10万円のパーツ ÷ 2秒短縮 = 5.0万円/秒 (1秒短縮に50,000円投資)
ところで、これらの投資は、レース参戦費用を確保したうえで、更にスペアが購入出来る位に留めておくのが無難です。
「必勝を祈願してカーボンホイールに全財産投入!」
なんていう神頼み的な投資は、たいてい上手く行きませんし、もし落車で壊してしまったら資金不足に陥ってシーズン残りのレースが走れなくなります。
「なるべく安価に収めてあとは脚とテクニックでカバー」ぐらいの気持ちで投資計画を立てられた方が無理がなく、結果的に上手く行くと思います。
よりバイクを速く進める為の参考にして頂ければ幸いです。
パワー・トレーニング・バイブル(原書:Training and racing with Power Meter)の著者、ハンター・アレン(Hunter Allen)氏のもとでパワートレーニングを中心にコーチングを学ぶ。
25年に及ぶ日本・アメリカでのレース経験を持つ現役選手。バージニア州ベッドフォード在住。現在でも週末はPro/1/2レベルおよびマスターズでレースに参加している。2013 全米自転車競技連盟主催パワートレーニングセミナー修了