[TDH] ツール・ド・北海道はどれぐらいキツイのか?


 
明日からツール・ド・北海道が始まります。
今年のコースは2019年のコースとほぼ同じ。
2019年は京大自転車部のコーチとして北海道に帯同させて頂きました。
彼らのデータから3日間のステージレースがどれぐらいキツいか見てみましょう。
 
(1)走行データ
第一ステージ 
走行時間: 5時間15分
走行距離: 189km
TSS:273tss
NP: 240W
第二ステージ 
走行時間: 4時間 3分
走行距離: 173km
TSS:201tss
NP: 234W
第三ステージ 
走行時間: 4時間 14分
走行距離: 182km
TSS:205tss
NP: 231W
 
(2)TSSの意味するもの
TSSとはトレーニング・ストレス・スコアの略です。
第一ステージ5時間 TSS: 240は「この日、5時間をかけて1時間のTT 2.4本分のストレスを身体にかけた」という意味です。
1時間のTT、2.4本をこなした翌日に201tss,翌々日に205tssをこなすのですから、これだけ見ても厳しいレースであることが分かります。
 
(3)NPの意味するもの
NPはノーマライズド・パワー(Normalized Power)の略です。
第一ステージのNPは240W
これの意味するところは「5時間にわたって、ずっと240Wで走るのと同じ身体的負荷を身体にかけた」という意味です。
これらのデータからも、ツール・ド・北海道の厳しさが分かりますね。
明日からの熱戦に期待しましょう!
 
Peaks Coaching Group – Japan
中田尚志
 

[世界選手権] 手持ちの機材で勝負する


 
写真は今年のエリート世界選ITTで3位に入ったジョシュア・ターリング。
ジュニアから上がったばかりの19歳ですが、本来の年齢であるU23はスキップしてエリートで走り、3位に入った逸材です。
彼がレースで使用したDHバーは標準品。
 
近年エリートのTTではオーダーメードのDHバーが標準となりつつあります。前腕とDHの隙間を埋めて空気抵抗を減らすことが出来るからです。

 
彼が所属するイネオスはワールドツアーの中でも資金豊富なチームにもかかわらず、ジュニアやU23の選手が使用するものと同じ市販品を使っていました。
 
単に準備できなかったのか、教育的見地からあえて準備しなかったのかは不明ですが、安価な標準品を使用したことでジョシュアの3位の評価が上がったことは間違いありません。
 
DHバーだけでなくエアロフォームも、そこまで完成されている感じではありません。ここも彼の今後の可能性を感じさせてくれます。
 
レースの世界ではワンオフの特別な機材が注目されがちですが、順位を決めるのは機材ではなくてパワー。
もっと言うとパワー/空気抵抗レシオです。
このことを知る関係者からみると彼の3位の評価はとても高いことは間違いないでしょう。
 

[世界選]クロエ・ダイガートはどれぐらい凄いのか?


 
今年の世界選手権個人TTで優勝したクロエ・ダイガート。
 
(1)パワー
TrainingPeaks が投稿したデータでは、驚異的なパワーを記録しています。
タイム: 46分59秒
平均時速: 46.229km/h
平均パワー: 322W
20分マックス: 337W
多くの選手にとって45分程度のエフォートはFTPより5%ほど低いワット数になります。 仮に彼女のFTPを338Wととすると5.1W/kgほどのパワーウエイトレシオがあることになります。
女子で世界のトップなのは間違いないですが、アメリカの男子国内プロと同程度のFTPがあることになります。
 
 
(2)男子選手とのタイム比較
今回は、体調不良により本調子では無かったと言います。
それを裏付けるのは過去のタイムです。
今回は2位と6秒差で優勝しましたが、彼女が絶好調だった2019年の世界選では2位のアンナ・ファンデブレヘンに1分32秒差をつけて優勝しています。
またこの年は同じコースで行われた男子U23の12位に相当するタイムで走っています。
このタイムは当時U23だったベン・ヘイリー、マーク・ヒルシ、ジャオ・アルメイダよりも速いタイムです。
彼らがワールドツアー入りした後の活躍は周知の通り。
ここからも彼女の驚異的な強さがおわかり頂けると思います。
 
 
(3)メンタル
2020年世界選手権で落車しガードレールの上を滑ったことで大腿の2/3の筋肉を断裂してしまいました。
しかし、長期のリハビリを続け今回の復活優勝を果たしました。
何度か会ったことがあるのですが、いつも堂々としていて、いかにも女王といった雰囲気のある選手です。
「東京五輪での私は本調子の50%」「もしもう一度(事故をした)あのコーナーを走れと言われたら同じスピードで突っ込む。何故なら勝つにはそのスピードが必要だから」と言葉からも勝ち気ですね。
今回の世界選手権ではトラックと合わせて2個の金メダルを獲得しました。