ミラノ~サンレモはどれぐらいキツいのか? Part1



プリマベーラ(春)と呼ばれるミラノ~サンレモが今年は8月に行われます。

このレースはUCIのカレンダーで唯一300kmを超えます。コースの性質上、スプリンターが勝つことが多いですが、レース距離が長いために単純なスプリント勝負ではなく、フィニッシュラインに至るまでの重労働を経てもなおスプリント出来る者だけが優勝を狙えるレースです。

2019年トレーニング・ピークスに公開されたローソン・クラドック(EFエデュケーション・ファースト)のレースデータを元に見ていきましょう。

※写真をクリックするとデータがご覧いただけます

 

・パワーデータの見方

パワーデータの解析をする時に大切なのは、データを見る順番です。

1.データ全体を見る

2.詳細を見る

常に最初に全体像を掴んで、次に詳細を見るようにしておくことで、枝葉末節にこだわって大局が見えなくなるということを防げます。

全体像を把握するために最初にチェックするのは時間・TSS・エネルギー量です。

 

クラドックのミラノ〜サンレモ

・時間7時間0048
・TSS 381tss
・エネルギー量 5208kJ

 

時間

7時間を超えるレースはプロ・ロードレースでも滅多にありません。近年は300kmを走破するこのミラノ〜サンレモだけではないでしょうか。理由はUCIが極端に長いレースに制限をかけていることと、そこまで大規模な交通規制が近年では難しくなっていることがあります。

モニュメントと呼ばれる大きなクラシックは以前から260km前後 およそ6時間半走りますが、それ以外のレースでは200km以内 5時間を超えないレースが殆どです。

その中で平均時速42.5kmに達するプロの密集した集団に7時間も身を置くのは肉体的にも精神的にも大きなストレスを伴います。

 

TSS

TSSはどれぐらい体にストレスを与えたかを表す指標です。例えばFTP1時間走ると100になります。

TSS381は、この日、クラドックは7時間かけて1時間のTT4本こなすのと同じぐらいの負荷を体にかけたという意味です。

TSSは強度と時間という異なるストレスをひとつのスコアで表してくれる便利な指標です。

1時間あたりのTSSを見ると 381tss ÷ 7時間=54tss/h

個人差が大きいですが短いレースだとTSS70tss/hぐらい。 通常のトレーニングだと50tss/h前後になります。ゆっくり走ると20〜30tss/h前後になります。

レース最初の3時間と勝負どころに至るまでの海岸線はフラットなことを考えると54tss/hあたりに落ち着くのは妥当なところだと思います。

 

エネルギー量

1W1秒運動すると1Jになります。 500W2秒ペダリングすると500W x 2s = 1kJになります。

クラドックがこの日生み出したエネルギーは5208kJ

1kJのエネルギーを生み出すには概ね1kcalのカロリーが 必要です。ですからこの日クラドックは5,000kcal程度を消費していることになります。

ですがカロリー消費は気温に大きく左右されます。人間のエネルギー効率は概ね1/4ぐらいですが、暑くなると効率が落ちるため1kJ生み出すにもカロリーは余分に必要になります。

例年の3月に比べて確実に気温の高い8月に行われる今回、もし同じような走りをすると5,000kcalをゆうに超える重労働になるでしょう。

1時間あたりのエネルギー量を見ると 5208kJ ÷ 7h=744kJ/h

200Wで1時間走ると720kJになりますから、この日クラドックは7時間の間ずっと200Wで踏み続けるのに等しいエネルギー量を生み出したことになります。

kJは体のサイズによって大きく変わりますが、モニュメントを優勝する選手は1時間あたり1,000kJ程度生み出します。

ざっと時間・TSS・エネルギー量をチェックしただけでも相当キツいことが分かるレースですが、明日はより深いところを見ていきたいと思います。

 

参照元 Training Peaks Blog File Analysis: Lawson Craddock at the 2019 Milan San Remo