マッテオ・ヨルゲンセンのインタビュー
ツール・ド・フランス第9ステージでラスト50kmからの大逃げを見せたマッテオ・ヨルゲンセン(モビスター)
まだ24歳の若手で、今年オマーン総合優勝、ロマンディーで総合2位と大躍進を遂げている選手です。
FLO BIKE(フローバイク)での彼のインタビューが印象的だったのでご紹介します。
「登りは完全な静けさの中を走った。
身体、心と向き合う時間だった。
ファンも居ない。無線も切れていた。だからウッズに抜かれるまで彼が来ているのは知らなかった。
12%の登りはウッズの領域。だから早目に行った。自分がやれることをやった。
モホリッチやカンペナールツが一緒に来てくれたら良かったけど、1人で麓で1分は厳しかった。
でも自分のしたことを誇りに思う。今回は上手く行かなかったが、いつかは」
ステージ優勝を狙うのに彼が選んだ戦術は、登りの能力が高いウッズやパウレスに対して麓で先行しておくこと。
タイム差を削りながら頂上まで行くことでした。
相手の強さを見抜き、自身の長所を活かし、やれることをやるというプロらしい戦い方ですね。
インタビューも含めて素晴らしいレースでした。
Peaks Coaching Group – Japan
中田尚志
デレック・ジーの2023 ジロ・デ・イタリア
今年のジロ・デ・イタリアで大活躍したデレク・ジー(イスラエル・プレミアテック)が彼のパワーデータをインスタグラムで公開していました。彼の走りをデータで見ていきましょう!
ジロ3週間
走行時間 92h
距離 3410km(トンネル含まず)
TSS 5,376
消費エネルギー 84,000kcal
獲得標高 45,725m
解説
一週間の平均走行時間は約30時間 , TSSは1,800tss, 消費エネルギーは28,000kcalにもなります。
多くのアマチュアサイクリストのトレーニング時間は6-10時間、TSSは300-500前後です。ジロではアマチュアの3倍の仕事を3週間に渡って続けることになります。
TSS ジーの1時間あたりのTSSは5,376÷92=58tss/h
1時間FTPで走るとTSSは100になります。ですから全工程を通しておおむね全開の60%の強度で走り続けたことになります。トップレベルのサイクリストで世界のトップ選手と変わらないFTPを持つ選手は意外に多く居ます。しかし、60%の強度で21日間走れる能力を持っているのは世界でも限られたワールド・ツアーの選手だけです。
クイーン・ステージ(第16ステージ)
https://www.procyclingstats.com/race/giro-d-italia/2023/stage-16/today/profiles
時間 6時間20分
距離 196km
TSS 423
消費カロリー 6,666kcal
獲得標高 5076m
平均ワット数 293W
NP 339W
解説
ジロ・ツール・ブエルタ、いづれのグランツールでもクイーンステージは獲得標高5,000mあたりに設定されることが多いです。アップダウンを繰り返しつつ富士山の1.3倍の高さを6時間で稼いでしまうのですから驚異的です。
クイーンステージは多くの選手にとって400TSSを超えます。400tssの意味するところは、この日彼は6時間かけて1時間のタイムトライアル4本分のストレスを体にかけたという意味です。
平均ワット数からエネルギー量を計算すると7,750kJ。1時間あたりのエネルギー量は1,220kJに達します。エネルギー量は体のサイズに大きく左右されますが、春のクラシックで活躍する選手の1時間あたりのエネルギー量は1,000kJ/hが目安です。グランツールの3週目に来て春のクラシック並の負荷のステージが登場していることが分かります。
翌々日からは2日連続の獲得標高4,000m超、さらに最終日前日の個人TTと繋がっていきます。例えるならクラシックの翌々日にさらにクラシックを1レース走るようなものですから、超人的な回復力が要求されます。
最もキツかったステージ(第13ステージ)
https://www.procyclingstats.com/race/giro-d-italia/2023/stage-16/today/profiles
時間 2時間18分
距離 73km
TSS 207
消費カロリー 2,922kcal
獲得標高 2,350m
平均ワット数 354W
NP 395W
解説
この日、ジーは4位に入っています。短いステージになるとその分、スピードは上がりレースは難しくなります。距離が短いからラクということは無いわけです。
また距離が短い分、タイムカットの時間も短くなります。その為、短距離の山岳ステージは、スプリンターにとってミスが許されません。
この日のジーの1hあたりのTSSは90tss/h。 1時間の全開走が100tss/hになりますから、90%で2時間以上走ったことになります。
2時間18分の平均ワット数が354Wからエネルギー量は3,313kJ。 1時間あたりのエネルギー量は1,410kJにも達します。
デレック・ジーのデータから、グランツールがいかに厳しいものかが伝わってきます。データを見ることで、より彼らの超人的な能力をうかがい知ることが出来ますね!
ピークス・コーチング・グループ
中田尚志
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パワーコーチへの道 パワートレーニングとの出会い
初めての海外
初めて海外に行ったのは1994年。 アメリカ カリフォルニア州バークレー
そこで何やらコーチにつくと早く上達できるらしい。ことを知ったのが私がコーチングに興味を持ったキッカケだった。
私が滞在したバークレー(Berkeley)は、自転車が盛んで、少なくとも週に5回はレースが開催されていた。
「レースに出すぎると疲労困憊するからトレーニングも大事だよ」と言われ、おぼろげながらトレーニングプログラムを立ててレースに出ていた。
町にはレネー・ウェンゼルというコーチが居て、ケンドラ・ニーランドという女子選手を指導していた。ケンドラは日本の前橋で行われた世界選手権で7位に入った選手。
彼女は女子のクリテリウムで優勝した直後に男子のプロカテゴリーの集団でも走ることでテクニックと体力を磨いていた。かと思えば、「今日は出ない」と行って観戦に回っていることもあった。更にはグループライド(練習会)に来ることもあれば、しばらく来ないこともあった。
どうやらコーチのトレーニング計画に従っているらしい。
そんなコーチに友人のゲンがコーチングを受けることなった。私よりもずっと強く、ずっと経験豊富だった彼だがコーチについてからメキメキと実力を伸ばしだした。
日本の全日本選手権で10位前後に入るようになり、遂にはプロを目指してスイスに渡り武者修行するまでになった。
日本に戻り、「自分がコーチングを受けたら少しは強くなれるのかな?」という興味はあったが、それは海の向こうの文化で日本に持ち込むことは不可能に見えた。
パワーメーターの登場
10年以上が経過し、パワーメーターを手に入れてトレーニングするようになり、効率的なトレーニングが出来るようになった。それは既に35歳になっていた自分にとっても革命だった。高校時代からトレーニングをはじめ「トレーニングのことはだいたい分かっている」と思っていた自分の体が面白いように反応することに驚きを感じた。
パワーが上がれば正解。パワーが上がらなければまた別の方法を試せば良い。簡単にパフォーマンスの変化を測れることがまず第一の革命。
次にターゲットを明確にすれば、35歳でもパフォーマンスが伸びることが分かったのが第二の革命だった。
それまでは沢山乗ることが強くなることだと思っていた。しかしその一方、思った程のトレーニング量をこなせない自分の体のキャパシティに限界を感じてもいた。
また年齢を考えると今のトレーニング量を確保するのが精一杯。トレーニングを増やすことは出来ない=老化に向かう。 という自身の考えを打ち破ってくれた。
パワートレーニングを日本へ
日本からパワートレーニングの書籍を取り寄せ、インターネット検索するうちに「当時アメリカで行っていたトレーニングだ」と思うワークアウトをいくつか見つけた。
さらにトレーニングの組み方やシーズンの過ごし方も「当時教えてもらったことが原型になっているのだな」と想像がつくことも多かった。
そこでハンター・アレンが販売していた「トレーニング・プラン」を試してみることにした。既に37才になっていたが、プランを開始して12週間後には今まで経験したことがないほどレースで入賞出来るようになった。
更にインターネットでコーチングが受けれることを知った。その時から「これならアメリカのコーチングを日本に持ってくることが出来るのではないか?」と思うようになった。
とはいえコーチングは、やはり遠い海の向こうの話。自身が会社員の傍らでこの文化を持ち込むのは不可能に思えた。そこで半分”諦めるため”にアメリカ・コロラド州で行われるパワートレーニングの講習会に参加することにした。
中田尚志
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