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マウンテンサイクリング in 乗鞍 女子優勝! 牧瀬翼選手 part 3

マウンテンサイクリングin 乗鞍のパワー解析最終回は標高がパワーに与える影響と今後の展望について書いてみたいと思います。

(4)標高がパワーに与える影響

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写真提供: (c)信州ふぉとふぉと館

牧瀬選手が231Wで1h10分 程度走れることは事前のトレーニングデータから分かっていましたが、それはあくまで低地での話です。

乗鞍はスタート地点で既に1,460m、フィニッシュ地点は2,720mにも達し酸素濃度の低下によるパフォーマンスへの影響は避けられません。

パワー解析ソフトWKO4では「もし海抜0mであれば何ワット出ていたか?」を計算する機能 ECP(elevation corrected power 標高でのパワー補正)があり、これにより標高がパワーに与える影響をある程度知ることが出来ます。

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牧瀬選手の場合、レース前半は平均241Wをキープし、後半は225Wに下がっています。

一見すると16Wもペースダウンしたように見えますが、ECPで見ると下がったのは僅か4W 。

こうして見ると16Wのペースダウンの内の12Wは概ね標高によるものであったことが分かります。

標高が与える影響は個人差がかなり大きく「何m上がると何%ワット数が下がる」というような全員に当てはまる一定の数式は存在しません。ですから必ずそうであったと断言は出来ませんがECPにより標高がパワーにどの程度影響を与えているかをうかがい知ることは出来ます。

牧瀬選手の全体のECPは253W!

もし低地であれば1h8分にわたり253Wを維持出来た可能性があることを表しています。

こうして見ると牧瀬選手はこの日かなり限界まで能力を引き出せていたことが分かります。

(5)どこまでタイムは縮むのか?

今回良いパフォーマンスを引き出した牧瀬選手ですが、パワーデータを見返してみると、まだ少しタイムを縮めれる可能性があると感じます。

将来的に彼女がどこまでいけるのかを予想してみましょう。

タイムが縮むと感じる理由

  1. トレーニングの一環として参加したため、レースに向けて緻密なコンディショニングを行ったわけではない。
  2. 通常のロードレースに使うバイクを使用している。
  3. レース当日の気象条件

理由1. レースに向けてのコンディショニング

Part1でご紹介したように今回はCTL89tss/d(過去42日のトレーニング量の平均)を上回るATL99tss/d(大会前の一週間のトレーニング量の平均)で大会当日を迎えたために若干疲労が溜まっている状態で大会当日を迎えています。大会前にトレーニング量を落とし、フレッシュな状態で走っていれば、もっとキレのある走りが出来た可能性があります。

また大会までは2019を見据えたエンデュランス中心のトレーニングをこなしている為に、レースに向けたVO2Max以上のトレーニングはあまりしていません。

その為にレースで必要なパンチ力を欠いていた可能性があります。

特にVO2Maxについては、登りでのキレを作ってくれるので大会1ヶ月前に行っておけば効果が大きいです。

またVO2Maxトレーニングを行うことでベースであるFTPも上る可能性があります。

FTPを引き上げるには2つの方法があります。1つはエアロビックの能力を高めFTPを下から押し上げる方法、もう1つはVO2MaxのトレーニングをしてFTPを上から引き上げる方法です。

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短期的に効果が上がるのは後者の方法ですからピーキングの中でこのトレーニングをすれば、特に後半のタイム(アタック〜フィニッシュ)が短縮出来る可能性があるわけです。

理由の2.通常のロードレースに使うバイクで出場

Part2.で紹介したパワーウエイトレシオの問題です。

Best Bike Split(ベスト・バイク・スプリット)というソフトウエアを使えば、異なる条件でレースを走った場合のタイムを想定することが出来ます。

このソフトによると、もし1kg軽量化して臨んだ場合、タイムは約1分短縮することが出来ます。

ロードレース用とはいえ彼女のバイクは7.2kgと既に充分軽いバイクですが、体重を500g、バイクを500g軽量化出来れば1分近くタイムは縮まるわけです。(もちろんパワーダウンしないことが前提です)

UCIのルールでは最低重量6.8kgの規定がありますが、乗鞍に限ってはUCIルールは関係ありませんから超軽量バイクの使用も可能なわけです。

ちなみに重量減は同じ重さでもバイクの重量減よりも体重減の方が効きます。

それは脂肪を減らすことで無駄に脂肪に血液を送る必要がなくなったり、排熱効率が上がったりと重量減にプラスした効果が見込めるからです。

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https://www.bestbikesplit.com/member-race-details/111299

私は信頼性を犠牲にしてまでもバイクを軽くするのはお勧めしません。

レースは完走することが大前提ですし、「軽くはなったけど壊れるかも」といった不安を抱えて走るのは精神的にも良くないからです。

キワモノ的なパーツではなく信頼できるパーツで軽量なものを選ぶのがお勧めです。

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牧瀬翼選手の走りを支えるGOKISOカーボンホイールとカーボンドライジャパンのビッグプーリー

理由3. レース当日の気象条件

台風が通過した影響か当日の山頂付近は強風が吹き荒れていました。ラスト6kmを彼女は独走していましたが、吹きさらしの区間が無風であれば2分短縮できた可能性があります。

条件が揃えば現在でも1時間6分台を出すことは充分可能でしょう。

彼女自身の競技力がまだまだ伸び盛りであることを考えると、機材や自然条件に頼らずともパワーアップによってそれ以上のタイム短縮が可能だと感じます。

何と言っても今回が彼女にとって初めての乗鞍ヒルクライム参加だったのですから!

来年また彼女が乗鞍に帰ってくるかは今のところ未定ですが、またその機会があれば今回の記録を更新出来ると良いなと思います。

また今回の解析を参考にして頂いて来年乗鞍に参加される皆様のタイムが縮まると嬉しいです。

貴重なデータ提供を頂きました牧瀬選手ありがとうございました!

牧瀬翼選手 フォローよろしくお願い致します!

Web http://flowering-possibility.com/

blog: https://makisetsubasa.amebaownd.com/

Instagram: https://www.instagram.com/tsubasa.makise/

Twitter: https://twitter.com/MakiseTsubasa

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写真提供: (c)信州ふぉとふぉと館

Peaks Coaching Group – Japan

中田尚志

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マウンテンサイクリング in 乗鞍 女子優勝! 牧瀬翼選手 part 2

前回は牧瀬翼選手の脚質と乗鞍HCレース当日までのコンディションについて書いてみましたが、今回はレース当日のレース戦略とパワーを見ていきましょう!

 

(1)何ワットで走るべきか?

初めて走るヒルクライムの場合、どれぐらいの強度で走れば良いか感覚的には分からないものです。

そういった場合でも過去のパワーデータから自身がどの程度の走力を持っているかを推し量ることが出来ます。

そうすることでオーバーペースを防ぎ、コントロールしたレースが可能になります。

 

牧瀬選手のPDカーブ(過去のMMPから出せるパワーをモデリングしたもの)に乗鞍の予想タイムである1時間10分を当てはめてみると概ね231Wをキープできることが分かります。

このワット数をキープ出来れば、「良いレースが出来た。」と言うことが出来ますし、更に限界を超えて記録更新が出来れば「ベストなレースが出来た。」と言えるでしょう!

 

ただここで気をつけなければならないのは標高です。過去のパワーデータの殆どは低地で記録されていますから、標高が高く酸素濃度の薄い乗鞍では少し低めに目標パワーを設定しておく必要があります。

 

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(2)ワット数が高くなれば勝てるのか?

ワット数=高いパワーが維持できれば当然タイムは短縮出来ます。ですからワット数が高いほど有利になるのは明らかです。

しかし乗鞍ヒルクライムでは平均ワット数が唯一勝利を決めるファクターではありません。

 

なぜなら乗鞍はマスドスタート(全員が一緒にスタートする)ですから、レベルが高くなればなるほどロードレース的駆け引きやその他の条件が結果に影響してくるからです。

平均パワーだけでなく坂の勾配や風などの自然条件、ライバルとの駆け引き、心理状態が大きくレース結果に影響します。

日本人初の欧州プロ・市川雅敏さんの言葉を借りれば、このあたりが「自転車レースはドッグレースとは違う。」ところです。

 

乗鞍ヒルクライムの結果を決めるファクター

  1. 有酸素能力(FTP / VO2Max)
  2. パワーウエイトレシオ(パワーを体重で割った数値 高いほど速く登れる)
  3. ペーシング(最初から最後まで高いパワーを維持する能力)
  4. 標高(スタート地点1,460m フィニッシュ地点2,720m 標高が高くなればなるほど酸素濃度は薄い。)

  5. レース展開(レベルの高いヒルクライムではロードレース同様の駆け引きが必要。精神的に厳しくなる局面でライバルに差をつければ、身体能力の差以上にリードを広げることが出来る。)

  6. 天候(標高が高くなれば、天候は変わりやすく風もキツくなる。特に森林限界を超えるラスト3kmあたりからは風を遮るものが少なく風の影響を受けやすい。)
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(3)ペーシング

ヒルクライムレースではスタートからゴールまで高いパワーを維持する能力が求められます。

1.有酸素能力(FTP / VO2Max), 2.パワーウエイトレシオはレース当日までに決まっているわけですから、レース当日はその能力をどれだけ引き出せるかが勝敗を決めます。

 

そのためにはペーシングが必要です。

ペーシングとは、最大限の仕事量を引き出すためのスピード・コントロールと言い換えることが来ます。

スタート直後は熱くなり過ぎてオーバーペース陥らないこと。それでいて遅すぎないペースに乗せること、中盤以降は出来る限りペースを落とさず最後の一滴まで絞り切る精神力が求められます。

 

特に乗鞍ヒルクライムは最初にオーバーペースに陥ると、標高により酸素が薄くなる後半でペースを取り戻すのは難しくなります。

更に後半の方が勾配はキツく、森林限界に達した後は吹きさらしの道が続きますから、完全に足が止まる可能性さえあります。

 

その為、前半はライバルの動きを見つつ、ある程度動きに対応できる余裕を残しておき、後半勝負を決めにかかるのが定石です。

牧瀬選手はライバルの動向をみつつレースをすすめ、後半勾配のキツくなる位ヶ原山荘付近でアタック!

独走に持ち込み大会レコードに20秒に迫る1時間8分34秒でフィニッシュラインを越えました。

 

データを見返すと前半のAVGパワーは241W, 後半は225W, 全体の平均ワット数は233W。

ほぼ事前に予想されたワット数と同じでした。

 

 

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またレース後半でアタックした時のパワーは13秒 343W 時速は28km! その後もペースを落とさずに走りきっています。

タイムは狙わずに勝ちを意識した走りをしたという彼女ですが、その走りはパワーデータにも表れています。

 

次回は標高がパワーに与える影響と今後のタイム予想をすることで更に詳しく見ていきたいと思います。

 

Peaks Coaching Group – Japan

中田尚志