ツール・ド・フランドルとパリ・ルーベのパワーデータについて
- 2015年04月1日
- 中田尚志ブログ
先週のツール・ド・フランドルは期待に違わぬ熱いレースが繰り広げられ、今週末のパリ・ルーベが待ちきれない方も多いのではないでしょうか?
今回はハンターが以前行ったパワー解析をもとにこれら2大クラシックに要求されるパワーについてご紹介したいと思います。
どちらも約260㎞を6時間で走破するレースで石畳がキーポイントですが、急坂のフランドル、平坦なパリ・ルーベでは要求されるパワーは少し違います。
2011年この2つのレースを走ったジョージ・ヒンカピー(当時BMC)のパワーデータを見て行きましょう。
データをざっと見るだけでも、いかに厳しいレースかが伝わってきます。
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フランドル / パリ・ルーベ
・レースタイム・・・6h00min / 6h12min
・距離・・・256km / 258km
・順位・・・ 6位 / 42位
・消費エネルギー・・・6,100 / 6,229kj (500mlコーラ約27本分!)
・TSS・・・353 / 319 (1時間の個人TTを3~3.5回連続で走るのと同じストレス)
・ノーマライズド パワー・・・NP342w / 323w (6時間!)
用語解説
TSS(トレーニング ストレス スコア)…1時間のFTP走を100として表わす。
NP(ノーマライズドパワー)…変動なく一定ペースで走ったと仮定した場合のパワー
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そしてこれらは厳しい石畳の上で激しい位置取り争いをしながら記録されたものだということを忘れてはいけません。
1時間のTTを滑らかな舗装路の上で行うだけでも大きなダメージがありますが、それらを石畳の上で3回連続で行うと考えるとどれだけ激しいかがご想像頂けると思います。
この2つのレースは近年ではトム・ボーネン、ファビアン・カンチェラーラなどが両方の優勝者リストに名前を連ねていますが要求されるパワーは、それぞれ少し異なります。
・ツール・ド・フランドル
フランドルは序盤は割と穏やかなペースで、ジョージ・ヒンカピーにとってはアクティブリカバリー(Power Z1, HR Z1, RPE <2)レベル)で進みます。この時間のNPは272w(60% of FTP)
3時間を超えてからは”ベルグ”の連続が始まり一気に強度は上がります。
ここで選手は毎回15秒~2分間、FTPの120%を超えるアネロビック キャパシティ(Power Z6 121-150%, HR Z6, RPE >7)の高さと回復力を試されます。
15~60秒の坂は40回、1~2分の坂は20回を数え、それはさながら石畳の上でポジション争いしながら行うインターバルトレーニングのようです。この時間のNPは一気に上がり404w(90% of FTP)/hに達します。
フランドルで勝つためには、前半は石畳の上でも体力を温存しながら勝負に備えれるハンドリングスキル・エアロビックエンジン、そして後半は繰り返されるアネロビックインターバルをこなす反復能力、ホンの少しの下り区間(5-30秒)で体力を回復させる技術、勝負所で一気にアネロビックパワーを爆発させる集中力が要求されます。
2011 フランドル 全体 |
2011 フランドル後半 |
・パリ・ルーベ
一方、パリ・ルーベはフランドルよりもコースは平坦です。それは決してラクなわけではなく足を止めて休める時間がフランドルより短くなることを意味します。
また最もハードな1時間のNPは353w(78% of FTP)/hとフランドルより50wも低いですが、これはフランドルより前半からペースが速いことが影響しています。
パリ・ルーベの石畳は重要区間のカルフール・ド・ラルブルで3分30秒、最も長い区間で5分を超えます。
石畳に入る前の位置取りでスピードは上がり、石畳に入れば粗い路面をこなす為にパワーが要求されます。更には石畳を出ればポジションを取り戻すために休む間もなく再加速。フランドルは急坂を繋ぐ緩急の激しいインターバルですが、パリ・ルーベは高速巡航する中で、さらに2分~5分の高強度を強いられるクリスクロスのような状態です。
パリ・ルーベをパワーで表すとアネロビック/VO2MaxをFTP付近で繋ぐインターバルと言えます。
パリ・ルーベでは、6時間の長きにわたって高いパワーを維持する能力、石畳区間を抜けダメージを受けた足を高い運動強度の中でも回復させる能力(AC/FTP)が要求されます。そして勝つためには、爆発的パワーを出したアタックの後、すぐに巡航に移れる回復力と耐久力が必要です。
2011 パリ・ルーベ |
・二つのレースの共通点
二つのレースに共通するのは、高いアネロビック能力。
フランドルの急坂を登る時、フランス郊外の石畳を走り抜ける時、選手たちはFTPの120%を超える強度を何度も何度も繰り返しながら、勝負に挑んでいると言えます。図中右側がアネロビック領域ですが6位に入ったヒンカピーでさえ6時間のレース中、40分間もこの強度に入っています。
プロロード選手として最後のレースにパリ・ルーベを選んだskyのブラッドリー・ウィギンスは、コーチのティム・ケリソンと共に全ての石畳のタイムを測り、冬の間石畳の長さに合わせたアネロビック/VO2Maxのインターバルをこなしたと言われています。
石畳をこなす選手たちがどんなパワーを要求されながら走っているのかを想像しながら観戦するのも面白いのではないでしょうか。
今週の日曜日が楽しみですね!
二つのクラシックのパワーデータを元にハンター・アレンが考案したトレーニング
ヒルリピート
WU: 15分 エンデュランス(Power Z2 56-75%, HR Z2, RPE 2-3)。
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クラシックを想定し丘や風に向かってトレーニングを行おう!
MS1: ヒルリピート 20本
30秒ー2分の丘を繰り返し登ろう。
レスト:2-3分
地形:丘もしくは向かい風
同じ丘をリピートする必要はない(もし行いたかったら、もちろんOK。)。
どの坂もアネロビックキャパシティ(Power Z6 121-150%, HR Z6, RPE >7)レベルで。
FTPの150%以上を目指そう!(FTP300wなら、AVG>450w!)
頂上付近では足が焼けつくような感覚が得られるはずだ。
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CD: 15分 イージーで。
アネロビック・リピート
WU:20分
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MS1:アネロビックキャパシティ(Power Z6 121-150%, HR Z6, RPE >7)
6 x 2分
レスト:1分
地形:丘もしくは向かい風
FTPの135%以上を目指そう!(FTP300wなら、>AVG405w!)
今回はヒルリピートよりもレストを短く。
5分イージー
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MS2:アネロビックキャパシティ
6 x 1分
レスト:1分
FTPの150%以上を目指そう!(FTP300wなら、>AVG450w!)
5分イージー
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MS3:アネロビックキャパシティ
6 x 30秒
レスト:1分
オールアウトで!!
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CD:15分イージー
家に帰ったらデータをダウンロードして確認しよう。
TSS100は誰にとっても、FTP1時間分のストレス。
6時間のトレーニングでジョージのTSS350は超えれただろうか?
グッド・ラック!!
参考
Training Peaks Blog
Power Numbers From The Spring Classics Hunter Allen
パワー・トレーニング・バイブル(原書:Training and racing with Power Meter)の著者、ハンター・アレン(Hunter Allen)氏のもとでパワートレーニングを中心にコーチングを学ぶ。
25年に及ぶ日本・アメリカでのレース経験を持つ現役選手。バージニア州ベッドフォード在住。現在でも週末はPro/1/2レベルおよびマスターズでレースに参加している。2013 全米自転車競技連盟主催パワートレーニングセミナー修了