シーズンオフのトレーニングについて part2



前回のブログではシーズンを振り返り来シーズンへの道筋をつける方法をご紹介しました。

今回は実際に冬のトレーニングで何をすべきかを順番にご紹介したいと思います。
冬のトレーニングのフォーカス 4点
(1)FTPの向上
(2)筋力アップ
(3)弱点強化
(4)休養

(1)FTPの向上
一昔前までは、冬のトレーニングと言えばLSD(Long Slow Distance)でした。
エンデュランス(Power Z2 56-75% of FTP)に集中し、じっくり走り込む事で筋持久力・ミトコンドリアの増加を図るという理論です。
この考えは今でも生きていますが、冬の間LSDのみを行うのではなく、テンポ(Power Z3 76-90%)、FTP(Power Z4 91-105%)をメインに走り込む方が短時間で効率良く、よりレースに即した持久力(エアロビックベース)を鍛える事が出来るのが分かっています。

また選手が1年に走れる時間と言うのはある程度決まっていますから、いたずらに多く距離をこなす事なくエアロビックベースを構築できる方が、より長く好調を維持出来ます。たとえば前年1万kmを走った選手が、今年2倍の練習量である2万kmをこなせるようにはなれません。
ですからこの選手が走り込みで6,000km走ったら、本格的なシーズンは残りの4,000-5,000㎞程度で打ち止めで、その後は好調を維持するのが難しくなります。ですから強度を上げて短い距離でエアロビックベースを構築出来た方がレースシーズンの為にも良いのです。

レースに即した持久力
例えばレースの時、勝負所でチギれてしまったのは単純に持久力が無かったからでしょうか?そんな事ばかりではないはずです。
優勝候補が息も切らさず登っていたのに自分は苦しかった(有酸素能力を超えていた)ことや、それまでに足を使っていた(無酸素能力を使っていた。)ことが原因の方が多いはずです。
レースが単純に持久力で決まるなら、毎日10時間走って世界一周をするようなサイクリストがコンタドールに勝てるはずです。

下記の図はFTP 300wと250wの選手が300wで走った場合のイメージ図です。
左の図はFTP 300wの選手と250wの選手の比較です。FTP 300wの選手は1時間300w維持出来るのに対し、FTP 250wの選手は300wではVO2Max領域に入ってしまう為、3-8分しか耐える事が出来ません。

右の図は具体例です。例えばレースで登りに入り、集団について行くには300wが必要だったとします。FTP300wの選手は1時間集団に残れるのに対し、250wの選手は3-8分でチギれてしまいます。高い有酸素能力=高いFTPのパワー。これがレースに即した持久力です。

FTPの絶対値を上げましょう!

FTPを上げるには?
では実際にFTPをあげるにはどうすれば良いのでしょう?
冬の間、FTPを上げるにはエンデュランスの中にテンポ・FTPを組み合わせるのが効果的です。また冬の終わりにはVO2Max(Power Z5 106-120%)も入れる事で更に効率的に鍛える事が出来ます。
FTP増加の為のメニュー

SST(Sweet Spot, Power 88-94% of FTP)トレーニング

WU: 15分 3 x 1分の高回転走を入れて足を目覚めさせよう。
——
MS1: SST 2 x 20分
地形: 緩い登り~登り
ケイデンス: 80-90rpm
——
MS2: テンポ 20-40分(Power Z3 76-90% of FTP)
地形: 平坦~丘陵地
ケイデンス: 90-100rpm(いつもより10rpm速い回転数で。)
——
CD:15分

このトレーニングは典型的なFTP強化の為の週末のメニューです。
テンポは速いケイデンスで行うことで、レース後半でも回転を維持する能力を養います。

2 x 20分の平均値が94%FTP、テンポ40分が問題なく出来るようになったら、次の段階に入りましょう。 次の段階はFTPゾーン、そしてVO2Maxを刺激します。



FTP(91-105% of FTP)トレーニング

WU: 15分 3 x 1分の高回転走を入れて足を目覚めさせよう。
——
MS1: FTP 2 x 20分
地形: 緩い登り~登り
ケイデンス: 80-90rpm
——
MS2: VO2 Max(106-120% of FTP) 3-4分 x (4-6本)
地形: 登り
AVGが3本目から10%落ちたらその時点で終了。落ちないように頑張ろう!
——
MS3: テンポ 20-40分(Power Z3 76-90% of FTP)
地形: 平坦~丘陵地
ケイデンス: 90-100rpm(いつもより10rpm速い回転数で。)
——
CD:15分

(2)筋力アップ
ロードレースはアタック、ゴールスプリント、登りなど持久競技でありながら、高い筋力が要求されます。
同じ持久力の選手が一緒にゴール地点まで来た場合、筋力のある選手がゴールスプリントに勝つ可能性が高いですから筋力は重要です。
またクライマーであっても、登りの低いケイデンスで高いパワーを出すには高いトルク=筋力が必要です。

アメリカのプロ選手はクライマーであっても冬の間8-12週間は筋力トレーニングに費やします。

充分な筋量を確保してFTPトレーニングに入ることで、より高いFTPを獲得できる可能性が高くなります。
またケガの予防にも筋力トレーニングは大変有効です。
特にマスターの選手は加齢により筋量を失うスピードが加速しますから、シーズン最後まで筋量を確保できるようにジムに通いましょう。

(3)弱点強化
冬の間は、エアロビックベースを確保するのが第一のゴールですが、一方で弱点にアクセスするのも大切です。
冬は弱点強化に最も長く時間を費やせる時期です。
シーズンに入るとレースに合わせた総合的なトレーニングがメインになりますから、集中的に強化するには冬が一番です。

例えばレースで集団のペースが上がった時に足を使い切ってしまって、次の動きに対応できない=VO2Max領域がネックだったとします。

その場合は、冬の間、エンデュランス/テンポ/FTPを行うだけでなく、最低2週間に1回はVO2Maxのトレーニングを入れましょう。

エアロビックベースの構築集中するあまり、全く弱点にアクセスすることなく冬を越してしまったら翌シーズンに弱点を持ち越すことになってしまいますし、FTPの成長を阻害する要素(リミッター)にもなりかねません。時間がなければ週末のトレーニング時に1セット弱点強化メニューを追加するだけでも随分変わるはずです。

(4)休養
シーズンに入れば、激しいレース・トレーニングの繰り返しで少しずつ体力は消耗して行きます。
これをパワートレーニング用語で表すとCTLが高い状態でTSBがネガティブ(<0)になる状態と言います。

CTL…過去42日間のトレーニング量
ATL…過去7日間のトレーニング量
TSBCTLATL フレッシュさ。
CTLが高く(=過去42日間のトレーニング量が充分)、ATLが低い(=過去7日間はトレーニングが軽い)状態であれば、TSBはポジティブ(=練習量充分でフレッシュ)になりレースで良いパフォーマンスが発揮できる可能性が高くなります。

一方、高いCTLを維持している上にATLも高い状態になるとTSBはネガティブとなり深い疲労状態に入っていると言えます(ステージレース直後など)。

このような疲労状態を1年維持するのは不可能ですから、しっかりとしたエアロビックベースを構築しながらも、適度に休養をとりフレッシュな状態でシーズンに入ることが大切です。

CTL/ATL/TSBについて詳しくはパワー・トレーニング・バイブルP.189 第8章 パフォーマンスの調整方法をご覧ください。

フレッシュにシーズンに入ろう!





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Winter Training Plan

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中田尚志…Peaks Coaching Group プラチナム認定コーチ。
パワー・トレーニング・バイブル(原書:Training and racing with Power Meter)の著者、ハンター・アレン(Hunter Allen)氏のもとでパワートレーニングを中心にコーチングを学ぶ。
25年に及ぶ日本・アメリカでのレース経験を持つ現役選手。バージニア州ベッドフォード在住。現在でも週末はPro/1/2レベルおよびマスターズでレースに参加している。2013 全米自転車競技連盟主催パワートレーニングセミナー修了